ある夜、ぼくは摂政から呼び出しを受けた。ランプを手にした侍従に先導され、夜の白宮の階段を下りていく。今自分は何階にいるのか。すでに地上に出られるはずだが、侍従はまだ段を下っていく。そもそも、この巨大な宮殿に部屋がいくつあるのか、それが地下まで続いているのかも分からない。この先にあると考えられるのは、死ぬまで幽閉しておく地下牢か。
靴音は止まった。侍従が重い戸を開くと、バターの焦げる匂いとともに、かび臭さも漂ってくる。二脚向かい合った先に、摂政サンゲ・ギャツォが座っていた。無言のまま、摂政が目で合図を送ると、侍従は戸をきしらせて退出した。
左右に掲げられたバターの灯が、摂政の眉間に刻まれた皺や、見開かれた眼、白髪交じりのひげまで、くっまり描き出している。耐えきれなくなって、口を切ろうとしたときだ。
「何か言いたいことがあるのだろう? ないのか。ならば言わせてもらおう」(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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