1曲目のSpeed Ball Bluesは、リズミカルで明るい楽曲。名前の示す通り、スピーディーで快活な、滑るようなメロディーが続く。やがてベースのみのソロとなるが、ピアノとドラムが加わって、次第に勢いを高めていく。
2曲目のSpeak Lowは、コルトレーンの悲痛なサックスの調べでよく聴いた。このアルバムでは、管楽器がないためか、悲しみを覆い隠し、明るく振る舞う叙情的な曲調に変わっている。
3曲目のThe Way We Wereは、映画「追憶」の主題歌。物静かな中に内面を見つめるまなざしが感じられる。
4曲目のLike Someone In Loveは、あえて不協和音を際立たせ、メロディーをアレンジしながら始まる。原曲よりはかなり速いテンポで、ピアノのキーを強く響かせつつ、ドラムの勢いとともに高まりを見せていく。
5曲目のBlack Is Colorは、短調のメロディーの楽曲で、小さな波が次第に強さを得ていくのだが、上り切った坂をゆっくり下りるとともに、スピードを落としていく。
6曲目のGirl Talkは、女の子のおしゃべりを模しているのか、高音のキーを小走りで滑っていく。メインのメロディーに入ると、愁いを含むように、ゆったりとした歩みに変わる。強弱の減り張りが効いた演奏である。
7曲目のMidnight Sugarは、真夜中をイメージしたベース主調の静けさの中に、ピアノの目まぐるしく速さの変わるキーの響きが、見事なコントラストを醸し出している。
8曲目のLast Tango In Parisは、ラテンアメリカ音楽の情熱が控えめである。ヨーロッパ的な洗練された曲調は、知的に効果を計算されたかのように、冷徹なまなざしを感じさせる。力強いドラムの響きがしばらく続いたのち、元の愁いを帯びた曲調に戻っていく。
9曲目のMistyは、ハンク・ジョーンズの淡々とした中に秘かな思いを込めたメロディーで親しんできた。山本剛はいくつかのアルバムでこの曲を演奏している。それぞれ微妙な違いはあるが、ピアノのキーを強く響かせ、華麗さを前面に出した演奏をしている。このアルバムの中でも、この曲がとりわけ冴えが際立つ。
10曲目のBye Bye Blackbirdも、よく知られたスタンダードである。コルトレーンの演奏では、メロディーが次第に解体されていき、胸が引き裂かれるような痛ましさを感じさせられたものだ。山本剛の場合は、明るさと力強さ、リズムが際立ち、このアルバムを締めくくるにふさわしいエネルギーが感じられる。
なお、Amazon Music UnlimitedやQobuzでは、44.1kHz/24bitで配信されている。演奏そのものは、192kHz/24bitで収録されたが、MQA-CDの場合は、デコードすると176.4kHz/24bitの曲となる。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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