2024年04月01日

デイヴィッド・ロッジの『小説の技巧』

 小説作法の本は随分読んできたが、これは『大英博物館が倒れる』『交換教授』などで知られた作家、デイヴィッド・ロッジが、大学で小説の形式について講義したのち、新聞の文芸欄に連載されたものを、補筆して完成した著作である。
 小説家の生の声は貴重だし、小説作法の本に書かれた経験などは、小説を書こうとしている人間には大いに示唆的だが、小説に関する種々の問題を、体系的に取り上げた書物は少ない。これは小説家を志望する人や、海外文学の研究に携わろうとしている若者には、大いに参考となるだろう。
 ただ、この本で扱われているのは英米文学で、日本人には馴染みがない作品が引用されているので、ちょっと分かりにくいかもしれない。また、英語の小説の場合と、日本語で書かれた小説の場合では、ニュアンスが異なる場合もある。
 例えば、語り手をIと言い表わし、読者にYouと呼びかける小説は、表現研究では「二人称小説」と呼ばれている。英語ではごく自然なスタイルかもしれないが、日本語で「あなた」と呼びかけることはまれなので、奇を衒った小説と受け取られかねない。
 とはいえ、文学にとって重要な項目が目白押しなので、興味を持たれた方は、ぜひ読まれるといいだろう。例を挙げると、「異化」という手法が「独創性」と結びつくのはなぜか。それは慣習が感覚を鈍らせているのを、慣習から逸脱した描写をすることによって、「知識」としてではなく「感触」として伝えることができるからである。
 人口に膾炙した物語を焼き直す場合には、驚きを経験するのは登場人物の方であって、すでに物語を知っている読者には、アイローニーとして感じられるなど、卓見が多く述べられている。ただ読み流すのではなく、本に線を引くなり、ノートに書き写すなりしなければ、理解できないかもしれないが、その努力は報いられるに違いない。


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2024年03月21日

森鷗外の「雁」について

 高利貸末造の妾になったお玉が、東大生の岡田に片思いするという物語である。鳥籠に入った蛇を退治してもらったことで、お玉の岡田への思いは深まる。いい生活をさせてもらっていても、妾奉公しているお玉は、鳥籠に閉じこめられた小鳥である。そんな自分を外に連れ出してくれるのではという甘い期待に、お玉はとらわれているのである。
 一方、岡田はお玉には興味がなく、片思いされても迷惑にしか感じない。ドイツ留学が決まっているからである。ある日、岡田は狙われている雁を逃がそうとして石を投げ、かえって首に当てて殺してしまう。雁はお玉の象徴であり、偶然のいたずらによって、彼女の魂は悶えるのである。
 この小説は明治の末、二十世紀初めに書かれたわけだが、十九世紀の小説によく見られる全知視点で描かれている。現代小説だったら、お玉の視点、もしくは岡田の視点から描かれるはずだ。三人称限定視点で描かれることになるだろう。神の視点とも呼ばれる全知視点では、読者が主人公と同化して物語世界を体験できないので、三人称限定視点を取ることが多いのである。
 ただ、「雁」には語り手の「僕」が登場する。したがって、これは一人称小説でもあるわけだが、僕が知り得ないはずの、お玉の父や末造との関係にまで言及している。一人称小説のダブーを冒しているのである。僕が知り得たことしか、一人称の語りでは表現できないはずなのに。
 その欠点について、鷗外自身も気づいていたのだろう。語り手の「僕」がお玉と知り合って聞いたことで、居合わさなかった場面についても語れたという言い訳をしている。


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2024年03月05日

王禅寺と禅寺丸

 川崎市麻生区にある王禅寺は、真言宗豊山派の寺院で、星宿山蓮華蔵院王禅寺という。一説によれば、天平宝字元年(757年)、孝謙天皇の勅命により、武蔵国都筑(つづき)郡で聖観音菩薩を祀ったのが始まりだという。久良岐(くらぎ)郡金沢の称名寺の末寺となり、禅・律・真言の兼修道場として、東の高野山と呼ばれたほど栄えた。新田義貞の挙兵で焼き払われたが、再建のため山に入った称名寺の等海上人が見つけたのが、甘柿の禅寺丸だとされる。原木は現在でも境内に残っている。王禅寺は徳川幕府の庇護も受けて、初代将軍家康から十三代将軍家定までの位牌も祀る。
 聖観音菩薩を祀る旧本堂と、大日如来を祀る新本堂のほか、薬師如来を祀るお堂、仁王門、杉並木、池などが並ぶ。三宗兼修の道場だった頃の面影はないが、きれいに整備された境内は、静かでほっとさせてくれる。
 春のような陽気のため、三月初旬というのに、周囲の森では早咲きの桜が満開となっていた。十一ヘクタールにも及ぶ王禅寺ふるさと公園のほか、金刀比羅宮の祭神を勧請した琴平神社もある。なお、本殿の天井には蘭学者で画家だった渡辺崋山による花鳥山水の板絵があったが、平成十九年(2007年)の火災により、本殿とともに焼失した。


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