2026年04月20日

小泉節子の『思ひ出の記』について

 これはラフカディオ・ハーン、日本名小泉八雲の妻節子、本名セツの話を口述筆記したものである。小泉八雲の人物像が、ありありと描かれている。
 美の世界に生きた人で、夢と現実の境をさまよっていた。セツが怪談を語るときには、感情移入の余りに顔色も変わってしまう。このままでは、八雲が狂ってしまうのではないかと、恐れたこともあった。
 話はもっぱら東京に移ってからのことで、松江の頃のことは、わずかしか語られていない。八雲が旅館に泊まっていたとき、女中が眼病を患っていたのに、旅館の主人がすぐに医者につれて行かなかったのに起こった話は、ドラマ「ばけばけ」にも描かれている。
 非常に神経質な人で、家の中で掃除をされるのも嫌っていた。執筆中は箪笥の引き出しの音でさえ、アイデアが消えてしまうからと怒った。おとなしい声で話していたが、ひどいと感じると「地獄」と発していたという。鳩の真似を二人でしたという話も語られていて、恐らく鳴き声の真似をしたのだろう。ドラマのように物真似までしたかどうかは分からない。
 以前、史実とドラマ「ばけばけ」の違いばかり強調してきたが、意外と『思ひ出の記』に忠実に作られている部分を感じた。ただ、語られる内容のほとんどは、東京時代の夫八雲についてであり、同居していた稲垣家の養父母、「ばけばけ」の松野家の養父母についてはほとんど語られていない。
 ハーベスト出版の『思ひ出の記』には、そのほかに「オヂイ様のはなし」と「幼少の頃の思い出」も併録されている。前者は実母の祖父で、主君を諌めて切腹した江戸家老塩見増右衛門のことである。後者を読むと、稲垣家が維新後も武家屋敷に住んでいたことが分かる。フランス人に虫眼鏡をもらったことで、異国人を恐れなくなり、それが八雲と結ばれる遠因になったことがほのめかされている。


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posted by 高野敦志 at 00:58| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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