2026年01月15日

翻訳と生成AI

 フランス革命以前のパリを舞台にした小説を翻訳していて、prévôtという言葉に突き当たった。何と訳したらいいのだろう。クラウン仏和辞典には、裁判官、憲兵隊隊長、長官などの訳語があるが、どうもしっくりこない。王政時代のフランスも、江戸時代の日本も、司法権と行政権が分離していなかった。だから、代官あたりの訳語がいいだろうかと思った。フランス国王から、司法と行政を代わりに任されていた役職だからである。
 ところが、舞台はパリである。パリの司法と行政を任されていたのなら、町奉行あたりの方が的確かもしれないと思った。だとすると、パリ町奉行と訳そうとも考えた。しかし、prévôtはフランス各地に置かれていた役職で、幕府の直轄地の江戸、京都、大坂、駿府だけに置かれていた幕府の高級官僚とは異なる。prévôtを町奉行と訳すと、フランス各地にも奉行がいたのかという類推が働いてしまう。フランス国王から司法と行政を任されていた役職としては、代官が最適という結論に至った。
 実は、訳語の選定にあたっては、生成AIのChatGPTと議論を繰り返した。フランス革命以前のフランスの政治について、普通のフランス人に聞いても分からない。フランスの歴史学者に聞かなければ分からない。しかも、日本の歴史にも通じていて、日本語も達者となると、稀有な存在としか言いようがない。それを見事にこなす生成AIは、翻訳での訳語に困ったときの良き相談相手なのである。


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posted by 高野敦志 at 11:28| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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