丑松が生徒の前で告白する決心がついたのは、猪子が殺害されたからだった。自身の身分を隠しきろうとした後ろめたさがあったからこそ、猪子の死が引き金となって、告白に至ったのである。出自を恥じない猪子に共感して、自らの身分を明かしたわけではない点に、丑松の人間的な弱さが感じられる。
この作品はドストエフスキイの『罪と罰』の影響を受けているという。ラスコーリニコフが老婆を殺害したのに対し、丑松は穢多の身分を告白して社会的な自殺をした。ラスコーリニコフの魂を救ったのは娼婦のソーニャであるのに対し、丑松の心の支えとなるのは、養父である僧侶に迫られて寺を飛び出すお志保である。また、二つの作品の類似点としては、会話による議論が物語の展開に大きな役割を担っている点である。
なお、物語の構造として惜しまれるのは、クライマックスである告白の後、丑松が小学校を去るところで止めておけば、余韻が残って、読者の感動が心にとどまったのに、大衆文学がよくやるように、その後の丑松がテキサスに移住することにまで言及している点である。これは本格的な文学には不慣れな明治の読者に対する、藤村なりのサービスなのだろうが。
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