日蓮宗と言えば、「南無妙法蓮華経」の御題目ばかりだと思われがちだが、日蓮自身が比叡山で天台密教の修行をしていたので、日蓮宗の教義には密教の用語が多用されている。御題目を中心に日本の神々やインドの護法神、不動明王や愛染明王の種子(梵字)まで、日蓮宗の大曼荼羅には書かれている。目指すのは御題目を唱えながら、『法華経』への理解を深めて、「即身成仏」、この世に生を保ちつつ仏になることである。『法華経』自体がすでに密教化しており、「陀羅尼品」には梵語で説かれた呪文が書かれている。
加持祈祷と言えば、真言宗、天台宗ばかりと思われがちだが、日蓮宗でも盛んに加持祈祷が行われている。『法華経』の守護神である鬼子母神に対し、「陀羅尼品」を読誦しながら、カチカチと高い音を出す木剣加持を行ったりする。修験道のように九字を切って魔物を追い払ったり、妙見菩薩に祈りを捧げて除災を願う星祭りも行っている。日蓮宗で祈祷師になるためには、中山法華経寺での100日間に及ぶ荒行をすることが条件とされている。それを通して、日蓮宗の僧侶としての精神力と法力が得られるとするのである。
では、天台密教と日蓮宗の大きな違いと言えば、天台宗が『法華経』を中心としながら、密教や禅、浄土教まで幅広く包摂しているのに対し、日蓮宗は『法華経』一筋という点である。天台宗でも「久遠実成の釈迦如来」を崇拝するが、それを大日如来と同体と見る。一方、日蓮宗では大日如来には懐疑的で、あくまでも「久遠実成の釈迦如来」への信仰を貫いている。ただ、日蓮宗の修行は密教の「身密」「口密」「意密」のうち、「口密」に特化しており、「久遠実成の釈迦如来」への信仰を中心とした密教と見ることもできるだろう。
さて、真言宗、天台宗の加持祈祷といえば、息災、増益、調伏、敬愛などの護摩法が規定されている。一方、日蓮宗では厄除け、病気平癒、商売繁盛、家内安全、災難除けなどの祈祷を行っているが、修法そのものが細かく分類されているわけではない。『法華経』への信仰や、護法神への祈願が信者を禍から遠ざけ、幸福をもたらすものと考えるのである。(つづく)
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