2023年11月21日

アニメ『銀河鉄道の夜』

 1985年に公開されたアニメで、宮沢賢治の原作にほぼ忠実である。台詞もそのまま用いられているが、大きな変更点はジョバンニやカムパネルラなど、登場人物のほとんどが猫に変更されている点である。
 これは漫画家のますむらひろし氏が、制作に関わっているからである。氏は『銀河鉄道の夜』の研究を長年されており、未完の同作品に関して、初期形、最終形、四次稿編というように、原作の異なる原稿に基づいて、繰り返し漫画化を試み、二〇二三年には成果を最大限に生かした四次稿編を完成している。
 ますむら氏の足跡からすれば、このアニメは初期の研究に基づいて制作されており、四次稿編の緻密な表現と比べれば、それほど個性的であるとも思えない。昭和時代のアニメといったタッチで、メルヘンチックであるが、リアリティとファンタジーの両立を果たした四次稿編の素晴らしさからはほど遠い。ますむら氏は原案を提示したに過ぎず、アニメーションを直接制作したわけではないからだが。
 ジョバンニは青い猫、カムパネルラは赤い猫である。服は上半身のみである。猫の表情の描写も類型的である。ますむら氏の四次稿編に感動した人間からすると、アニメとしては不満が残ってしまうのである。
 大半の登場人物は猫に変更されているが、タイタニック号の沈没で犠牲となった家庭教師とただし、かおるは、なぜか人間のままである。猫の世界として描くなら、登場人物はすべて猫でなければ筋が通らない。
 脚本は別役実、音楽は細野晴臣が担当しており、幻想的で美しい世界なのだが、ちょっと物寂しい感じがする。明るい部分と悲しい部分の減り張りが、もう少しあっても良かったのではないか。
 カムパネルラが銀河鉄道から消えて、ジョバンニが目を覚ました形にしたのは、原作の四次稿と同じである。ただ、ますむら氏の四次稿編では、黒い帽子の男が語る人類の歴史や、現実がかりそめに過ぎないといった、仏教的な思想が挿入されている。その一方で、ブルカニロ博士の催眠実験は削除されている。未完成の遺稿を、もし賢治が完成させていたら、こんな形になったであろうという想定で、ますむら氏の四次稿編は組まれているのである。
 猫の表情から切実な感情が伝わってくること、黒い帽子の男の話を挿入したことが、ますむら氏の四次稿編の特長であり、四次稿編をもとにした『銀河鉄道の夜』の再度のアニメ化を切に願うところである。


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posted by 高野敦志 at 01:59| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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