それ以来、ぼくは剃髪することを拒否した。黄色い袈裟はまとっていたが、髪が伸びて肩にかかるほどになっていた。半僧半俗といった出で立ちで、日暮れにポタラ宮を抜け出したりしていた。摂政から再三の忠告があったが、仏道修行も半ば放棄してしまった。
すでにラサにも冬が訪れていた。雪も岩肌をまだらに覆うだけで、ヒマラヤの山々のようには積もらない。ポタラ宮から眺められる街並みも、うっすら薄化粧している。葉の落ちた柳の枝には霧氷がまとわりついて、朝日を受けて輝き、キチュ河の中州に降りた霧は、白い絹地のように照り映えている。
その日はいつになく、朝から大雪になっていた。石造りの平屋根の民家は、綿をかぶったようになり、そこに立てられたタルチョ(祈祷旗)も、凍りついて垂れ下がり、風が吹いても翻ることはなかった。
長い一日が過ぎてゆく。日が落ちる時刻になって、ようやく雪は降りやんだ。民家の窓にかかった幕から、明かりが洩れるようになった。そこには夫婦と子供が住んでいて、出来事を語り合っていることだろう。(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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