自分のヨットが持ちたいという想いで、お金をごまかしたり、他の生徒から巻き上げたりした。ヨットは少年にとっては、祈りの対象のような物で、ヨットのためならいかなるイカサマも許される気がした。
ある日、少年は春子という娼婦と夜を共にする。それは女という物を知らなかった少年には、初恋のような対象だった。ヒギンズ氏の計らいで、中古のヨットを手に入れた少年は、春子をヨットに乗せる。それはヨットと恋人を同時に我が物にした至福の時だった。
しかし、娼婦である春子は、少年と馴染みになる以前に、多くの男たちの慰み者だったのである。その話を聞いた少年は、ヨットという神聖な存在を、男たちに穢された屈辱を味わう。彼らが乗りこむヨットに細工を施し、荒波で転覆するように仕組んだのである。もくろみ通りヨットは遭難した恐れが強まった。ところが、親友の時次が乗りこんでいたことを知り、死を求めるかのように、自身のヨットで荒海にこぎ出す。
少年はヨットのためなら、非道なことでも何でもやらかすが、ヨットを愛する気持ちでは、他の誰よりも純粋だった。親友を遭難に巻き込んだことを知ると、何も顧みずに助けに向かった。犬死に終わることも恐れずに、ヨットをこぎ出さずにはいられなかった。その純粋さこそがこの小説の魅力であり、成人すればほとんどの若者が失ってしまうものである。短編集『太陽の季節』に収められた小説の中で、この作品が最も美しく感じられた。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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