2024年07月21日

映画『銀河鉄道の父』について

 これは門井慶喜の直木賞受賞作品を、成島出が映画化したもの。原作にほぼ忠実に映像化している。父政次郎を役所広司、賢治を菅田将暉、妹トシを森七菜が演じている。宮沢賢治の一生を、二時間余りの映画にまとめるのは、かなりの困難が伴うはずだが、それを父政次郎の視点から描くことで、家族との関わりを中心にエピソードを選んだ。
 父政次郎は質屋を営む旧家の主人だが、新しい時代に生きる者として、思い悩む息子と衝突しながらも、懐深い慈愛で見守り続ける。家業の質屋を弱い者いじめと言ったり、折角進学させてやった盛岡高等農林学校をやめると言い出したり、家の宗派である浄土真宗をののしって、日蓮宗に入信したり。豊かな商家に生まれた坊っちゃんの我が儘のようだが、人の役に立つ仕事をしたいという息子の真摯な願いを、広い心で受け止めていく。
 賢治に創作をするように勧めたのは、妹のトシだった。トシが結核で倒れたのを知り、童話「風の又三郎」を書いて、病床の妹に聞かせる。トシに読み聞かせたい一心で「月夜のでんしんばしら」などの物語を書き続ける。しかし、雪の降った朝、トシは息を引き取る。その悲しみが「永訣の朝」という詩として結晶する。
 妹トシの死後、賢治に創作を続けるように勧めたのは、父政次郎だった。賢治が文士として生きることを、心から応援するようになっていた。創作を続けながら、農民に農業指導をする賢治だったが、トシと同じ結核に倒れる。何としても助けたいという政次郎の思いが、ひしひしと伝わってくる。
 危篤に陥った賢治の枕元で、政次郎は賢治がメモ帳に書き留めた「雨ニモマケズ」を読み上げる。臨終正念のための枕経のように。賢治の死後に『宮沢賢治全集』が上梓された。「銀河鉄道の夜」を読んだ政次郎は、夜行列車の夢を見る。その車中で賢治とトシに出会う。家族として生まれたことを、死後の魂同士で語り合っているかのようだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:00| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする