大江氏の小説を初めて読んだのは、早稲田大学の文芸専修で、森常治先生の授業においてだった。当時の僕には「個人的な体験」は、表面的な理解しかできなかった。障害者の子どもを抱えた青年の苦悩は、大江氏の実子、知的障害を抱えた大江光氏が生まれたことが創作動機となっているのだろう。
その頃、僕が属していた文学研究会というサークルに、大江氏をお呼びしたことがある。早稲田祭での講演会で大江氏は、右翼から脅迫を受けたことを語っていた。障害を抱えた息子をとともに○○しろと。また、渡辺淳一氏が自身のことを謙遜して、自分はそんな立派な作家じゃないと洩らしたことに触れ、「私もそう思います」と結んで、会場の笑いを誘っていた。
大江氏の作品は「飼育」や「死者の驕り」など、初期の短編はよく読んだが、長編に関してはあまり読んでいない。フランスの作家、ロブ=グリエとの対談で、大江氏が原爆を人類の最大の悲劇ととらえていたのに対し、ロブ=グリエが人類の悲劇はさまざまあり、原爆だけを特別視すべきではないと述べていたのが印象に残った。
実は、その後、僕は大江氏が、息子の光氏をともなって、小田急線に乗るところを見た。老父の大江氏が、障害のある光氏をかばって、背中に手を回して車両に乗せた。そのとき、僕と光氏の目が合った。「何を見ているんだ」と思ったんだろう。大江氏は息子を座席に座らせ、手摺につかまりながら、頭を下げて楽しそうに語りかけていた。息子を思う愛情の一端がにじみ出た光景だった。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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