その議論が本格的に取り上げられたのは、第二次世界大戦後のことである。日本に民主主義を行き渡らせるためには、漢字が大きな障害となっており、ただちに漢字は廃止できなくても、将来的に廃止することが検討された。そこで使用する漢字に制限をかけるとともに、表記が難しい漢字の多くは簡略化された。「學」は「学」に、「臺」は「台」に、といった具合に。漢字は当座使用するとされ、義務教育で教える漢字「当用漢字」が設定された。
しかし、日本語で漢字の使用を廃止することは、事実上不可能だという結論に至り、当用漢字は常用漢字と名称を改めるに至った。現代の日本語は、重要な用語を漢字とカタカナで表記する。漢字をすべてひらがな、またはカタカナで表記した場合、漢語における大量の同音異義語が区別できなくなる。たとえ区別できたとしても、読解の速度が著しく低下する。漢字さえ知っていれば、専門的な用語であっても、大体の意味は推測できるが、仮名文字で書かれてしまったら、辞書で調べない限り、意味は全く不明となる。
また、漢字が廃止されてしまった場合、古典や歴史などの過去の文献を、専門家以外は読めなくなり、文化の断絶が起こってしまう。したがって、日本語が使用され続ける限り、日本語から漢字の使用が廃止されることはないだろう。
漢字の本場中国においても、中華人民共和国成立以後、漢字が国の発展の障害になっているという議論が起こり、漢字の大幅な簡略化が行われた。いわゆる簡体字の誕生である。将来的には漢字を廃止することも視野に入れていたと思われる。しかし、漢字の簡略化は極限までは進められなかった。一方、台湾や東南アジアでは、伝統的な字体、繁体字が今でも使用されている。
中国のテレビを見ると、画面の下に話の内容が漢字で表記されている。中国語でも発音をアルファベットで表記するピンインが用いられているが、これは普通話である北京語を学習する上では必要だが、日常生活で用いられることはない。テレビで上海や香港の人民が、インタビューに応じた場合、漢字の表記がなければ北京や他の地方の人々には、何を言っているのか全く分からない。北京語を学校で教えられているとはいえ、日常生活で用いられているのは、その地方の方言だからである。漢字が話し言葉における方言の壁を、取り除いてくれているのである。漢字を廃止してしまったら、文化の断絶による喪失は、日本語の場合よりも大きいだろう。(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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