2023年03月27日

芳川泰久の「見えるんです 固まるんです」

 東京新聞の夕刊を見ていたら、月刊掌編小説に芳川泰久の短編が載っていた。語り手の「わたし」は髭を生やした老人と、寄り添った夫人の夢を見る。語り手はそれが自分の曽祖父母だと思い込む。ところが、曽祖父は四十五歳で亡くなっていたことを知る。三年後、末娘が届けてくれた夫婦の写真は、以前夢で見た姿とそっくりで、横にいるのは妻だった。つまり、語り手は自身の姿を夢で予知していたことになる。
 ここまでなら、家庭内での逸話を描いた短編という印象なのだが、語り手は新幹線の中でまどろみ、富士山が噴火している夢を見る。自身に予知能力がある気がして、正夢だとしか思えない。ただ、妻と娘は語り手が病んでいると見ている。語り手がよろけるところで時間は停止してしまう。
 トドロフは『幻想文学論序説』の中で、「幻想」とは物語の中の不可解な出来事に対して、読者が現実的な説明ができるか、超自然的な説明を受け容れるかで「ためらう」際に生じる効果だと説明している。
 結末で語り手は時間が停止して、「この夢の中から出られない気がした」と述べている。現実的な説明としては、この作品は回想の形を取っているから、時間が止まった感覚も過去の記憶に基づいているというものである。一方、超自然的な説明としては、語り手は時間の停止した夢の中に閉じこめられたままで、その状況を読者が目の当たりにしているというものである。いずれの解釈も可能だから、この作品には「幻想」の効果が感じられるのである。
 実は、僕は四十年前に、早稲田大学の第一文学部で、芳川泰久先生のフランス語の授業を受けていた。まだ二十歳の大学二年生だった。先生も三十過ぎの長髪で温和な、若々しい姿をされていた。
「大学が好きなら、大学の教師になってしまうという方法もあるんだよ」とおっしゃっていた。あの青年のような先生と、東京新聞に載っている現在のお顔を比べると、すべては夢のような気がしてしまう。僕の頭の中では、芳川先生は今でも若々しい姿をしているのだから。こう言うと、自分はまだ若いようだが、僕も今年還暦になってしまった。
 芳川先生が仏文学者であると同時に、作家になっておられたのは知らなかった。小島信夫文学賞を受賞されたということだ。一般教養のフランス語を教わっただけなので、先生は僕のことなど、もうご存じないだろうが。
 ちなみに、僕はフランス文学で修士号を取った後、日本語学の研究をして博士号も取った。今年の三月まで、先生と同じ大学で非常勤講師をしていた。大学が好きだったので、この年までキャンパスに出入りしていたのである。二十九歳の時に舟橋聖一顕彰青年文学賞というのを受賞したが、それ以後は振るわず、今はアップルのpodcastに小説や旅行記をアップロードしている。表舞台に出られるかは分からないが、書くことが好きなので、誰かが発掘してくれるのを期待して、生きている間は書き続けるつもりだ。あの世に逝っても書いているかもしれないが、夢で会った亡き父のように。


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2023年03月26日

音楽配信のOTOTOYについて

 僕は昭和生まれの人間なので、好きなアルバムは自分で所有したいという気持ちが強い。Amazon Music Unlimitedに入っているから、コンピューターでは音楽が聴き放題なのだが、SONYのウォークマンやAudirvanaに入れて、CD音質のものでも、ハイレゾ相当に変換して聴きたいのだ。
 ウォークマンに関しては、Amazon Musicに対応したandroid版があるが、バッテリーの持ちが悪いというから、今のところ購入する気はない。パソコンでCD音質をハイレゾ相当に変換するには、Audirvanaが最高なので、好きなアルバムはCD音質で入手したいのだ。Audirvanaで再生すると、ハイレゾのファイルは買う必要がないと感じるほどなのだから。
 ただ、最近はCDが売れないせいか、名盤であっても中古でしか手に入らないことが多い。少々高くても手に入ればいいが、中には一枚五千円以上の値がついたりする。CDがほしいといっても、リッピングしてしまうので、物体としてのCDではなく、CD音質のファイルを合法的に入手したいのである。Amazon Music Unlimitedで好きなアルバムが見つかった場合、CDが廃盤で中古も手に入らなかったらどうするか。
 Amazonでもファイルは販売しているが、mp3ではいくらアップサンプリングしても、ハイレゾ相当の音質にはならない。アップルではハイレゾやCD相当のロスレスも販売しているが、どうやらWindowsでは購入が困難なようである。
 そこで、いろいろなサイトを探してみたのだが、音楽配信のOTOTOYが最もふさわしいことに気づいた。僕はもっぱらジャズを聴いているのだが、アルバムの豊富さでは遜色がない。ハイレゾのほか、大部分がロスレスのCD音質である。他のジャンルでは圧縮音質も一部あるのだが、これだけロスレスのアルバムを品揃えしているなら、中古のCDを高値で買う必要もない。

OTOTOY
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posted by 高野敦志 at 02:05| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

高野邦夫詩集『寒菊』(ePub)

 高野邦夫が1962年(昭和37)2月に、五月書房から出版した処女詩集『寒菊』を電子書籍化したものです。恋愛から失恋、工員の生活、妹への思い、やがて訪れるはずの死について描いています。
 1928年(昭和3)に生まれた高野邦夫は、太平洋戦争末期に予科練に入隊し、復員後は自動車工場の工員を経て、日本大学に入学、卒業後は中学、高校の教員として働きながら詩作を続けました。日本詩人クラブ、俳人協会の会員でした。1997年(平成9)に敗血症で亡くなりました。
 以下のリンクからダウンロードしてください。
kangiku.epub

 iTunesからダウンロードする場合は、ミュージック→iTunes→iTunes Music→podcasts→当該のフォルダの下に、ファイルが入ります。
 IEでダウンロードした場合は、拡張子をzipからepubに変えて、下記のアプリでご覧下さい。

 ePubはiOSのiPadやiPhoneなどで読むのに適した形式です。iBooksなどでご覧下さい。Windowsでは紀伊國屋書店のKinoppy(http://k-kinoppy.jp/for-windowsdt.html)が、最も美しくePubのファイルを表示します。

 ブラウザからePubを開く場合、Googleのchrome(https://www.google.co.jp/chrome/browser/desktop/index.html)なら、プラグインのReadium(http://readium.org/)をインストールして下さい。
 firefox(https://www.mozilla.org/ja/firefox/new/)にもプラグインのEPUBReader(https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/epubreader/)があり、縦書きやルビなどにも対応しています。
 EdgeではePubは開けなくなりました。

 なお、パソコンのiTunesで「購読」したり、iOSのアプリpodcast(https://itunes.apple.com/jp/app/podcast/id525463029?mt=8)でマイpodcastに登録すれば、確実に新しいエピソードが入手できます。


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