これは日本古来のものではなく、西洋から伝来した降霊術が日本的に変貌したものである。本来の降霊術では、不安定な三脚のテーブルが用いられる。その上に複数の者が手を置くと、三脚のテーブルの脚が、その下の安定したテーブルを叩く。それをモールス信号のように記録するというものである。
愛娘の死を悲しみ、ナポレオン三世からの迫害を逃れて孤島にこもったヴィクトル・ユゴーは、テーブルが叩く音から御告げを聞く降霊術にはまる。質問に対する答えが肯定なら一回、否定なら二回というのは分かるが、一回ならA、二回ならB、Zに至っては二十六回叩くと想定し、フランス語の単語を構成していく。しかも、一秒間に複数回叩く音から、文章をひねり出すのであるから、難行苦行であるに違いない。
ユゴーは亡き娘のほか、シェイクスピアやモリエールなどの文学者、ナポレオン一世や三世など、政治家の霊まで登場する記録を残している。それがユゴーの『静観詩集』などの詩作にも影響を及ぼしたという。降霊術に現れた心霊の言葉が、詩集にも現れているからである。
ユゴーはなぜ、テーブルの叩く音を数えるという煩瑣な方法にこだわったのか。それは実際に心霊の存在を信じていたと同時に、降霊術に自身の意識が影響を及ぼすのを避けたかったからだという。
降霊術における口寄せや、自動書記の方が、心霊の言葉を記録するには、はるかに容易な方法であるが、口寄せに関しては霊媒としての特質が必要である。また、霊媒を装った詐欺師も多い。自動書記に関しても、意識的に文章を作ってしまう恐れがある。
現代人の多くは心霊の存在を否定する代わりに、無意識というものを想定する。降霊術でつづられた文章には、ユゴーの無意識が関わっていたというわけである。だとすると、自動書記にこだわったシュルレアリスムとの接点も見えてくる。
ただし、シュルレアリストの自動書記は、精神病者のように支離滅裂なものが多い。詩として見られるものの多くは、後の推敲によるものである。自動筆記によって、整然とした文章が生成されることはまれである。
ユゴーが残した降霊術の記録は、きちんとした文章の形を取っているものが多い。ただ、意味不明なものは心霊とのコンタクトに失敗したとして、排除されていた可能性が高い。また、テーブルを叩く音を、どこまで正確に数えていたかも疑問で、きちんとした単語になるように、意図せずして数え間違えることもあっただろう。降霊術がユゴーの詩作に影響を与えたとしても、詩を書くときには、神経を研ぎ澄ましていたはずで、無意識から生成された言葉が、そのまま文学作品となったわけではない。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en
https://twitter.com/lebleudeciel38
Telegram
https://t.me/takanoatsushi
GETTR
https://gettr.com/user/takanoatsushi

にほんブログ村

人気ブログランキングへ
ランキングはこちらをクリック!
Twitter、facebookでの拡散、よろしくお願い致します!