2022年10月16日

星新一の「椅子」

 私と彼は学生時代からの旧友で、ともに母を亡くしていたことで、親しい間柄になっていた。彼は社長をやっていた。半年前に金を貸し、久し振りに再会してみると、社長を辞めてしまい、廃屋のような家で自堕落な暮らしをしていた。ドイツで買い求めたという豪華な椅子に腰掛けて。
 働いて金を返せと彼に言うと、金はないし、働く気もないという答え。私は激高して、彼を人間の屑だとののしり、彼の座っていた椅子を取り上げてしまう。この椅子だけは持っていかないでくれという哀願を無視して。
 私は取り上げた椅子に座ってみる。すると、幼時に母の膝にいた時のような安楽を味わう。それだけで満足してしまい、彼と同じように働く意欲を失ってしまう。何物にも代えがたい幸福で、あとは何も要らない。そんな魔力を持つ椅子だったのだ。


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posted by 高野敦志 at 01:00| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする