2021年05月30日

割れて砕けてさけて散るかも(10)

 展望台はかなり下にあった。崖の中ほど辺りから、海に流れ落ちる対島(たじま)の滝が眺められた。分かれ道のところに戻ると、しばらく足場の悪い道を進んでいく。人気はまばらにしかない。海が荒れ気味ということもあるが。
 橋立吊橋は右手の道をかなり進んだところにあった。長さは門脇埼吊橋と変わらないが、人の姿はまばらだった。岩場がさほど突き出していないので、荒波のダイナミックなしぶきは見られない。吊橋の真下は玉砂利が広がっているだけで、大波でも来ない限り、海水で洗われることはないのだろう。海風の音ばかりが耳につき、寂しい感じがしてならない。
 ここは城ヶ崎海岸とともに、サスペンスドラマの撮影場所として、よく使われるらしい。吊橋の上からうつ伏せの死体を発見し、砂浜に打ち上げられた被害者に駆け寄る場面が思い浮かぶ。
「念願の橋立吊橋、見られて良かったね」と言うと、「念願って言われちゃった」と、友人は口をへの字に曲げた。


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2021年05月29日

割れて砕けてさけて散るかも(9)

 石ころが転がる斜面の道は、木々の根が地表にはびこり、足を取られそうになる。薄暗くなったら、それこそ崖の下に転落しかねない。けもの道のようなところは、明るいうちにしか来られない。しかも、吊り橋はかなり下にあるらしい。途中で道が二手に分かれた。対島(たじま)の滝展望台に、友人は行きたがった。
 先にどんどん行ってしまい、後ろ姿が見えない。強風が崖の道に吹きつける。寒くなって上着をもう一枚羽織った。垂直に切り立つ黒い崖に、容赦なく荒波が叩きつけていた。波に浸食されてできた洞門は、白いしぶきが流れ込んで、泡に覆い隠されてしまう。昨日見た城ヶ崎海岸よりも、荒々しい顔を海は見せていた。低気圧が西から近づきつつあり、灰色の空を雲が流れ、吹きつける風も強さを増していた。
 友人と連絡がついた。僕は展望台を通り過ぎて、はるか先に進んでいたようだった。戻ろうとすると、向こうから友人が登ってきた。行き違いになってしまったわけだか、おかげで黒く切り立つ崖の荒々しい姿を目にすることができた。(つづく)


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2021年05月28日

割れて砕けてさけて散るかも(8)

 雨が降り出したので、小室山に行くのはやめて、ホテルの車で川奈駅へ送ってもらった。駅に着くと、空が明るくなり、日が差してきた。
「しばらくは雨が降らないよ。熱海も夕方までは曇だし」
 前回の旅で行かれなかった橋立吊橋に、友人は行きたがった。急遽、伊豆高原の駅で降りて、前回の道をたどっていく。あのときと同様に、水音の響く川沿いの小道を進んだ。夕方なのにたちまち闇に包まれ、足もとも見えなくなった前回が「闇の中」なら、今回は森の道を進む「緑の中」にいた。石橋の脇を過ぎると、舗装された道の限界まで来た。
 あの日は森が切れた先に、ぼんやり海が浮かび上がっていた。「この世とあの世の境」に来てしまった気がしたが、今回は空と海がはっきりと見えた。
 ただ、水平線を見ると、太く白い線が一直線に広がっている。層のような高みをもって、ゆっくりとこちらに迫りつつあるようだ。今朝方、八丈島沖でやや強い地震があったので、津波が迫っているように見えた。ただ、ニュースでは津波の恐れはないと話していたけれど。
「あれは光の屈折だよ」と友人が言った。確かにそうだろう。しかし、いつの日か襲いかかる沖の津波は、陸地からはあのように見えるのだろう。(つづく)


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