これは山椒大夫伝説をもとに、鴎外が物語化する上で必要な点は改変して作り上げた作品である。人買いに騙されて、母と引き離された安寿と厨子王の姉弟は、奴婢としてこき使われる。安寿は自らの命を犠牲にして、厨子王を逃がす。厨子王は都に上り、やがて国守となって母を助けに向かう。鴎外の作品では、盲目となった母が、安寿と厨子王を慕う歌をうたっている。国守となった息子と母の感動的な再会で物語は終わる。
鴎外は「歴史其儘と歴史離れ」という随筆の中で、「山椒大夫」の制作の経緯を打ち明けている。山椒大夫伝説の中で、厨子王を逃がした安寿が責め殺されたのを、水辺に残された藁靴で入水したことをほのめかすにとどめた。また、都に上った厨子王が何年も父母を顧みずにいたのでは、うまい動機が求められないとして、十三歳の国守を作ってしまった。それを可能にしたのは、藤原氏の無制限な権力だとして。
歴史小説など史実をモデルにした作品は、あまりに史実が詳細に残っている場合、想像力を展開する余地がない。小説のモデルとしては、読者の興味を呼びそうな人物で、史実が細かく残っていない場合の方が、物語化する上で都合がいい。もしくは、モデルの人物は誰かと匂わせるにとどめ、人物に別人の名前を与えて、事実よりも作品としての整合性を優先して物語を書くのである。
鴎外は「歴史其儘と歴史離れ」の中で、歴史離れがしたくて「山椒大夫」を書いたと告白している。遠い過去の伝説なら、書かれている内容を改変しても、読者から苦情が寄せられることはない。それが幕末の志士なんかだと、手紙や証言があまりに多く残っていて、歴史離れすることは困難である。正確さを期すると、歴史其儘のルポルタージュのようになってしまう。子母沢寛の「新撰組始末記」のように。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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