2018年10月22日

ぼくがダライラマ?(58)

 ぼくは空元気をつけていただけだった。摂政サンゲ・ギャツォが、病と称して屋敷にこもるようになると、もはや不安を隠すことはできなくなった。恐らく何かがあったのだ。あの夜のことが発覚したのか。
 眠れない夜が続くようになった。寝ているのか、起きているのか分からなかった。摂政の娘が床に横たわり、ぼくは夢中で犯しているのだった。気づくと、手がべとべとしている。女の股から血があふれ出し、顔を見ると血の気を失っている。恐る恐る触れると、手についていた血で、女の頬が赤く汚れた……。
 大声を上げて目が覚めた。すでに夜は明けていた。部屋の窓を開けると、冷ややかな風が入ってきた。ラサの町は朝日を受けて、煉瓦造の屋根に飾られた五色の旗タルチョが、ゆるやかにはためいている。天はぐっと高くなり、澄んだ青と対照的な鰯雲が、秋の到来を告げている。キチュ河の岸辺には霞がかかり、彼方の山並みは橙色に輝いていた。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 03:31| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月07日

ぼくがダライラマ?(57)

         八


 何事もなかったかのように、月日は過ぎていった。ぼくはとんでもないことをしでかしたというのに。一時はダライラマになるために、仏道修行に励もうとも思ったが、あの日を境に箍(たが)が外れてしまった。ぼくは野山で狩りをしていた方が向いているのか。悟りを求めるよりも、恋愛の道に走る方が好きなのだ。
 これは釈迦の悟りを妨げようとした鬼神に、心がとらわれてしまったということか。ぼくは恐ろしくなって、観音菩薩の真言を唱えながら、師であるパンチェンラマのお顔を思い出そうとした。ところが、現れるのは摂政の娘の姿なのだ。

 ラマのお顔を想っても
 ぼくの心にゃ現れぬ
 恋しいあの娘(こ)のほっぺたは
 かくもありあり見えるのに

 聖なる法(ダルマ)を彼女のように
 絶えず心に想うなら
 今生のうちにこの身において
 難なく仏になれるのに

 ぼくはまだ、希望を捨てていなかった。ダライラマとして生きながら、内から湧き上がる本能の力を、抑えることなく活かす道があるのではないかと。それが何かは分からないが、詩を書くことは、少なくとも、心の慰めにはなるのだ。これをダムニェンで節をつけて歌ったら、摂政などは腰を抜かすんじゃないか。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 00:56| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月22日

ぼくがダライラマ?(56)

 ぼくが女の着物に手をかけると、おやってみたいに驚いた仕草をする。それって、男を燃え立たせるための手管ですか、お嬢さんと言いそうになった。ここまで誘っておきながら、服を着たままでおしまいなんて、ぼくは許しやしないよ。
 盛りのついた馬にでもなった気分だった。女は抵抗したけれども、途中からなすがままになった。初めての経験なので、どこに入れたらいいか迷ったりしたけれど。女は泣き叫んでいたが、途中から抵抗しなくなった。ただ荒い息は続いている。ぼくは何かが、内側から盛り上がるのを感じた。衝動とともに、血管を破るほどの何かが。その一線を越えるのが怖かった。
 ああ、目の前が真っ白になり、背筋から快感が突き上げてきた。夢中になってしがみつき、しばらく腰を振っていた。これで射精を止めるのって、至難の業だと思った。心臓がはち切れてしまうんじゃないか。
 女はおとなしくなり、ぼくの体にしがみついていた。もう自分で体を動かす元気もないみたいだった。今は何も考えたくなかった。これからどんなことが待ち受けているのかも。
「これで良かったの?」
 女は黙ってうなずいた。たった一度のことを胸に秘めて、好きでもない男のところに嫁に行くのか。そう思うと、急にいとおしくなって唇を吸った。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 02:32| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする