2019年03月12日

ぼくがダライラマ?(67)

 新郎と摂政に両脇を支えられ、新婦は立ち上がった。ぼくは脇で立ち尽くしていた。彼女は酔ったように、座らない首でこちらを向くと、小さな声で鋭く言った。
「あなたは残酷な方です」
 式はそのまま続行された。ぼくは法王の座に戻ると、侍従が止めるのも聞かず、度数の強い白酒(パイジュ)をあおった。食の入らぬ臓腑に、焼けるように流し込んだ。芸人が肩を並べて、タップダンスを踊っているのを、魂が抜けたように眺めていた。
  
 気がつくと、ぼくは寝室のベッドの上に横たわっていた。すでに夜となっており、バターの灯が放つ匂いで、ひどい胸焼けに襲われた。慣れない酒に手を出したのがいけなかった。頭がくらくらし、天井がゆっくり回転している。無性に喉が渇く。壺の水を手に取ると、ラッパ飲みした。(つづく)


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2019年03月07日

ぼくがダライラマ?(66)

 うつむいている新婦の首に、絹地の布がそろりと触れた。彼女は気後れした様子もなく、こちらを見上げた。二度と見つめ合うことはないことを、自身に言い聞かせるように。何か言葉をかけようとしたが、焦燥にかられるばかりだった。彼女の瞳は凍りついている。ぼくはわけが分からなくなった。
「これでいいんですか?」
「えっ?」
「ぼくは確認しておきたいことがある」
「ああ!」
 触れてはならないことに触れているんだ。生まれてはじめて結ばれたことが、そんなにいけないことだったのか。単に思い出として残るだけだったら、こんな美しいことはないだろうに。ぼくがダライラマであるために、人として自然に湧き上がる想いも、欲望も否定しなければならないのか。すべてを打ち壊したい衝動に、自分は駆られていた。
「ぼくたちの赤ちゃんは?」
 ああ、言ってしまった。新婦は吐き気を催したように、その場にしゃがみ込んでいる。周囲は騒然となり、摂政と侍従が駆け寄っていった。
「おまえは何を言ったんだ!」
 摂政は顔色を変えて、こちらを睨みつけた。列席した高僧や貴族がざわめき出した。こちらまで目まいがしてきた。


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2019年01月20日

ぼくがダライラマ?(65)

 立ち上がった摂政は、新郎・新婦の前に立った。二人がひそかに愛し合い、親の反対を押し切ってまで結ばれようとしたという逸話を披露した。そう言いながら、目頭を押さえる摂政を見て、何という虚言の天才だろうとあきれてしまった。人をあざむくためには、まず自分自身をだます必要があるのか。これはきっと、ぼくに対する当てつけなんだと思った。
 我に返ったとき、脇にひざまずいていた侍従に促された。言われるままに、今度はぼくが、新郎新婦の前に立った。祝福のための白い布、カタが手渡され、新郎と新婦の首にかけるように言われた。今度はぼくが、ダライラマとして祝辞を述べなければならない。
「よろしく、よろしく」と言いかけたが、あとの言葉を続けられなかった。若い貴族の動転はいや増していった。
 凍りついた貴族の首にカタをかけた。相手は答えられず、ただ深々と礼をするばかり。今度は新婦にカタをかける番である。(つづく)


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