2018年09月22日

ぼくがダライラマ?(56)

 ぼくが女の着物に手をかけると、おやってみたいに驚いた仕草をする。それって、男を燃え立たせるための手管ですか、お嬢さんと言いそうになった。ここまで誘っておきながら、服を着たままでおしまいなんて、ぼくは許しやしないよ。
 盛りのついた馬にでもなった気分だった。女は抵抗したけれども、途中からなすがままになった。初めての経験なので、どこに入れたらいいか迷ったりしたけれど。女は泣き叫んでいたが、途中から抵抗しなくなった。ただ荒い息は続いている。ぼくは何かが、内側から盛り上がるのを感じた。衝動とともに、血管を破るほどの何かが。その一線を越えるのが怖かった。
 ああ、目の前が真っ白になり、背筋から快感が突き上げてきた。夢中になってしがみつき、しばらく腰を振っていた。これで射精を止めるのって、至難の業だと思った。心臓がはち切れてしまうんじゃないか。
 女はおとなしくなり、ぼくの体にしがみついていた。もう自分で体を動かす元気もないみたいだった。今は何も考えたくなかった。これからどんなことが待ち受けているのかも。
「これで良かったの?」
 女は黙ってうなずいた。たった一度のことを胸に秘めて、好きでもない男のところに嫁に行くのか。そう思うと、急にいとおしくなって唇を吸った。(つづく)


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2018年09月12日

ぼくがダライラマ?(55)

 セックス・ヨーガだった。仏が女神と交わってるタンカは、ともに悟りを得た姿を表している。悟る前はともに生身の男と女。ただ、交わればいいというのではない。交わりながらヨーガをすることで、脊髄の下に眠る蛇の力を、頭頂に引き上げるというのだ。
 壁の図像に気を取られていると、女の腕が伸びてきた。話がしたいとか何とか言ってたが、要するに、抱かれたいってわけか、好きでもない男のもとに嫁に行かされる前に。
「猊下、ただ一度でよろしゅうございます」
 女は恥じらって、それ以上言えない。僕は面倒くさくなった。いくら童貞といっても、やり方を知らないわけではない。周囲に役人と坊さんしかいなかったから、性欲だって抑えられてきただけだ。目の前に身を捧げたいっていう女性が現れたら、それを抑えるいわれはない。
 セックスで悟りがえられようが地獄に落ちようが、なるようになれって感じだった。どうなるかも分からなかった。チベットでは手淫の習慣がない。精液が仏になるための菩提心だなんて言われたら、怖くてチンボコで遊べないじゃないか。(つづく)


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2018年09月04日

ぼくがダライラマ?(54)

 召使いが櫂(かい)で池の底を突くと、舟は音もなく水面を滑っていく。舳先にくくりつけられたランプは、草の生い茂った龍王殿の周囲を照らしている。息を凝らしていると、娘が手を伸ばしてきた。
 そのとき、舟が左右に揺れた。ぼくは危うく声を出すところだった。もう岸に着いてしまったのだ。神殿は黒い塊にしか見えない。この中には、龍王が住まっているのだろうか。知らぬ間にすべてがお膳立てされ、自分はそれに乗せられていくようだ。
 召使いが中に入ると、すでに神殿の内部は、多くのランプで照らされていた。急な階段を娘の手を引き登っていくと、最上階の瞑想の部屋は、かつて見た時とは異なる様相を帯びていた。
 香ばしい匂い立つバターの火が、ヒスイ色に輝く壁面の行者の像を、まるで息をする人間と思わせるほど、生々しく浮かび上がらせていた。片膝を立てて耳を澄ます姿は、肌のぬくもりを感じさせ、今にも壁面から抜け出しそうに見えた。
 閉ざされた神殿の中では、夢と現実の境が定かではないようだった。人間の姿をしていても、それが魔物であるかもしれない。摂政の娘は取り憑かれたように、壁面を埋め尽くした像の中で、とりわけ奇怪な体位をした男女の姿を見つめていた。(つづく)


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