2019年08月08日

今は亡き宇宙物理学者

 天国も死後の世界もないと思っていた。人間の死はコンピューターの電源を落とすのと同じだと。ところが、私の意識はこうして存在する。しかも、体が不自由だったのに、今では時空を思うままに移動できるんだ。宇宙創世時にできたブラックホールが、消滅する場面を目にして、自分の理論が正しいことも分かった。
 宇宙の終わりはどうなるか、銀河系が消滅した未来にも行ってみたんだが、目印となる星がなくなると、自分がどこにいるのかも分からなくなって、あわてて戻ってきたというわけさ。困ったことといったら、生前の自分と今の自分が、同じ人間なのか分からないこと。それに、思ったことが何でも実現してしまう、いいことでも、悪いことでも。


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2019年08月05日

お七と吉三郎

 だから、俺は女が苦手なんだよ。お七は別嬪だし、一途なところあるだろ。寺の中で逢い引きしようとするし、親のうちに連れ込もうとまでするんだから、ついつい情にほだされちまったってわけさ。いくら火消の俺の姿が見たいからって、付け火なんかするかい? 付け火は天下の大罪だ。お役人が不憫に思って、年を偽るように言ってくれたのに、本当の年を白状しちまいやがった。あいつの恋とやらにいかれちまって、家を焼かれた奴まで、火あぶりになったお七に涙を流したっていうじゃないか。おかげで俺のことまで世間に知れ渡っちまって、兄貴に不義理をしたのばれちゃったよ。ふてえ野郎だって兄貴には縁を切られるし、寺に入れられて坊さんには……


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2019年08月03日

モンゴルの少年

 大草原に少年の家族は住んでいた。隣のゲルまで数キロ離れていたから、少年の遊び相手は犬と家畜の羊だった。
 ある時、隣人が馬に乗ってやってきた。少年は犬を動けなくするため、石につないだ。犬は石を引きずったまま走り回った。おみやげは捕らえたばかりの小鳥だった。お客が帰ると、少年はお父さんと一緒に小鳥を逃がした。
 次の日、少年は羊に石をつないでみた。羊ものろのろと石を引きずって歩いた。蛙にも小石をつないだのだが、すっかり忘れて眠ってしまった。
 翌朝、少年はゲルの中で石につながれていた。おじいさんは、干からびた蛙の死体を見せて言った。
「お前がどんなことをしたか分かったか」
 少年は命の大切さに気づいて涙を流した。


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