2016年05月12日

千の舌を持つ鬼神

 千の舌を持つ鬼神がいた。生前に多くの民衆を騙したため、死後に地獄に堕ちたが、舌を抜かれるたびに、口の中から新しい舌が生えてきて、閻魔をあきれさせるほどだった。地獄からは出られなかったが、人間界に分身を派遣して民衆を惑わし続けた。
 この鬼神の罪状に心を痛めた仏陀は、鬼神を諭して仏法に帰依させようとしたが、鬼神は仏陀を騙すつもりでひれ伏した。
「おまえの呪力は大したものだ。そこで悟りを得た者として、如来の位を授けることにしよう」
 鬼神が目の前の仏殿に入ったところで、仏陀は神通力を使って鬼神を幻もろとも消し去ってしまった。
「おまえは六道輪廻から解放された。再生することもない。完全に無に帰したのだから」


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2016年04月26日

ただの箱

 人魚の国に多くの小箱が投げ込まれた。海底に沈んだ箱を拾ったのは、人魚の娘たちだった。箱を開けると、ガラス越しに真珠が見えた。手に取ろうとするとつかめない。ある箱では、若い男の顔が微笑んでいた。どうやら娘たちの望むものが映るらしかった。
 ところが、小箱を拾った娘たちは、次々に失踪していった。彼女を奪われた男の人魚は、小箱が怪しいと疑った。珊瑚の上で見つけた箱を開けると、満天の星空が輝いていた。謎が解けたと思い、日が暮れて海上に上がったところ、漁師に捕まってしまった。人魚の娘たちは見世物小屋に叩き売られていたのだ。男の人魚は船の上で激しく抵抗したために、ミイラにして博物館に展示されることになった。


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2016年04月23日

八幡神の還俗

 応神天皇は生前『論語』『千字文』などの漢籍を愛され、国内の平定と土木治水に御心を悩ませ給うた。幽界にお隠れになって後、仏道修行に勤しまれ、八幡大菩薩の名で崇め奉られた。
 豊前の宇佐、京の石清水と祀られて後、源頼朝が鶴岡八幡宮寺を建立してからは、一年の多くを鎌倉でお過ごしになり、弓馬の神としても崇められるようになった。
 ところが、元号が明治と改められるや、神官にそそのかされた暴徒が八幡宮寺を襲撃し、大塔や護摩堂、仁王門などを破壊し尽くした。長年の修行の道場を壊され、還俗を強いられたことにいたく心を痛められた。
「この国は利他の精神を失い、異国を餌食とすることで、やがては亡国の危機に立たされるであろう」


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