2019年11月30日

ある軍人の死

 軍人として祖国の勝利を信じていた中尉は、部下の戦死という地獄絵を目の当たりにしただけに、敗戦の知らせを聞くと、内心ほっとしたのだった。
 復員した中尉は政治家に転身した。原子力発電所の建設を進めたのも、核武装する好機だと感じたからだった。首相の地位にまで上り詰めたが、旅客機墜落事故で遭難者を見殺しにしたという疑念を持たれた。「本当のことが知られたら、某国と戦争になってしまう。真相は私が墓場まで持っていく」として、原因の究明を断固拒否した。
 首相を辞任した後、百歳を越える長命を保ったのも、ひとえに敗戦の屈辱を晴らさんがためだった。ついに真相を明かさずに死んだのは、軍人としての気概がなせる業だった。


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2019年11月17日

嘘つきじいさん

 むかしむかし、長門の国に子供のような老人がいた。長者の家に生まれたことから、わがままいっぱいに育てられた。昔話を史実だと信じていたから、枯れ枝に桜を咲かせられると思い込んでいた。葉の落ちた枝に藩札をまくと、桜の花が咲く代わりに、サクラが集まってきた。そこで、集まってきた人々に、枯れ枝に桜の花が咲いたと言い触らすように頼んだ。
 その噂を聞きつけたお殿様が老人を呼びつけ、目の前の枯れ枝に桜を咲かせるように命じた。お札をまくわけにはいかないから、千切った紙切れをまいて、桜吹雪でございますと答えた。
「この嘘つきめ」
 お殿様は激怒してしまい、偽者の花咲かじいさんは、とうとう牢につながれてしまったとさ。


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2019年11月05日

地震予知

 常夏の島の王国に、地震予知を生業とする男がいた。島ごとに方位磁石を設置し、針の指す方向のずれから、どこで地震が発生するかを予測していた。あるとき、磁石の針がくるくる回転を始めた。これは未曾有の災厄が迫りつつある兆候だった。男はインターネットを介して、船で沖合に避難するように呼びかけた。
 しかし、警報を発した途端、サイトは閉鎖され、男も公安によって連行されてしまった。
「いかなる罪状で拘束されたのですか」
「天変地異を予言するなど、人心を紊乱する恐れがあるからだ。民に動揺が広がれば、それに乗じて政変を起こす輩が現れ、ひいては他国につけいる隙を与えることになる」
 そのとき、遠くから地鳴りが聞こえてきた……


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