2018年01月06日

知床は記憶の果てに(2)

 駅前からは視界を遮る物は何もない。彼方の対岸まで、湖岸に広がる原野を一望できるからだ。柔らかな日射しが水の色も、草花の色も鮮やかにしている。標高の低く細長い地形は、サロマ湖で見たものと似ている。湖が汽水であること、海から湖を仕切るのが砂州である点でも同じだ。唯一の違いと言えば、国道と鉄道が砂州を縦断している点だろう。
 今回は原生花園の丘の上に立ち、オホーツク海の方も見下ろした。ここはワッカ原生花園よりも花が咲いている。黄色や白、赤いハマナスに混じって、橙色の百合なども咲いている。花の間を蝶が舞っていた。植林などされておらず、開放感が味わえるはずだ。
 ちなみに、原生花園駅は臨時駅で、ゴールデンウィークから十月末までしか止まらない。北海道の冬は長い。周辺には民家がないため、観光客が来なければ、乗降する客もいないのだ。無人駅ではあるが、今日は保線員が大勢来ていた。一年の大半は広大な湿地帯といった感じだが、花の美しい期間だけが、人々のにぎわいが見られる。行く手の斜里岳は、山頂だけが雲をかぶっていた。(つづく)

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2018年01月05日

知床は記憶の果てに(1)

 サロマ湖との再会を果たした僕は、その夜、網走湖畔のホテルに泊まった。窓の向こうに広がる湖は、対岸まで緑色によどんでいる。動きのない動画を見せられているような。阿寒湖がどれほど美しかったか、改めて感じさせられた。朝風呂を浴びて朝食をとると、急いで車に乗り込んだ。
 いよいよ、知床に向かって出発! 網走市内はすぐに通過し、釧網本線に沿っていく。友人の話では、北海道では列車を汽車と呼ぶんだそうだ。電化されていない路線が多いからだろう。おしゃべりするうちに、小清水の原生花園に寄りたいと言われた。
 本当は早く知床に向かいたかったのだが。駐車場に降り立つと、すぐ脇に原生花園駅があった。こぢんまりとした可愛い駅だ。そのとき、過去の記憶がよみがえった。デジャビュ、既視感があったのだ。三十三歳の時、知床を二度目に訪れたとき、女満別空港発ウトロ行きのバスは、乗客が僕しかいなかった。運転手がとても気さくな人だったので、勧められるままに下車し、目の前の風景を写真に収めたのだった。踏切があったのも、目の前に濤沸湖が広がっていたのも思い出した。(つづく)

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2018年01月04日

サロマ湖は変われど(7)

 空には月はなかった。月を見て、地球と見紛うこともなかった。あの日よりも温暖だし、海も緑がかっていない。横には友人もいて、孤独でもない。ただ記憶の中では、かつての自分が生きていた。
 そのとき、砂浜に不思議な物を見つけた。もちろん、幻覚ではない。枝を円錐状に支え合わせて、テントの骨のように組んであった。燃え上がる炎を、イメージしているのだろうか。動きを止めた火は、海岸に作られたオブジェに見える。作った人間はいなくても、意思が形を取った存在だった。
 時間に余裕があるので、T字路の箇所を越えて走っていく。そのとき、かつての記憶がつぶさによみがえった。ああ、この風景だ。あの日より晴れているが、日も西に傾いているが、確かにこの風景だ。坂道を下っていく。かつてはここを反対に上って、初めてオホーツク海を目にしたのだった。そこには緑がかった、冷たい北の海があった……。
 もう戻らなければならない。日が傾いた中を、必死に自転車をこいでいく。ネイチャーセンターに着いたのは、五時半少し過ぎだった。車に乗り込むと、僕は一方的にしゃべり続けた。友人は圧倒されている様子だった。過去と現在を照合する独り言に。


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