2019年11月19日

沈みゆく野付半島(6)

 男性は根室半島の方を回ってきたらしい。相棒が仕事で来られないので、一人旅をしていると話していた。
「今夜は屈斜路に泊まるんですよ」と友人が答えた。一人旅だと無性に人と話がしたくなるという気持ちはよく分かる。若い頃の僕は、知らない人と話をするために、ユースホステルに泊まったものだから。
 男性が去ったところで、ネイチャーセンターの二階に行き、展示された資料を見て唖然とした。一九七〇年頃のトドワラは、かつて僕が見たとき以上に、トドマツの根が密集するように転がっていた。それが今ではほとんど消えてしまった。野付半島は百二十年後には、地盤沈下で水没してしまうというのだ。
 幕末の頃の野付半島の絵図を見ると、野付湾が海跡湖のように、砂州で囲まれており、今は海となっている辺りも、徒歩で行き来できたことを知った。水没するというのも、あながち誇張ではない気がした。百二十年という時をさかのぼれば、祖母が生まれた頃になるが、地質学的にはごく短い時間である。死んでいくのは、トドワラやナラワラだけではなく、野付半島そのものだったのだ。(つづく)


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2019年11月16日

沈みゆく野付半島(5)

 木道を戻っていき、二手に分かれた方に進む。下は海となっていた! 砂浜がすっかり浸食されており、海鳥が遊ぶ姿もない。木道の先には痩せ細った砂州、その先に水色の桟橋が、当時の姿をとどめているが。何というさびれ方だろう。今でも尾岱沼との間に航路があるようだが、不定期便で予約がなければ船は出ないとのこと。

 三時を告げるメロディーが流れてきた。僕が野草の写真を撮っていると、友人は先にネイチャーセンターの前で、初老の男性の話を聞いていた。
「四十年前に友達がここに来たんですよ。その時は僕は行かなかったんですが」
 そこで自分も二十数年前に来たときは、トドワラには朽ちた根が多く転がり、トドマツの立木も林のように残っていたことを話した。
「今じゃ立ち枯れした木が数本ですからね。見る影もない姿ですよ」
 男性はネイチャーセンターの二階で、トドワラの現状を知って仰天してしまったらしい。こんなに変わり果て、絶景が失われてしまったことに、時の流れを感じざるを得なかった。
「それに、野付半島自体が痩せ襲ってしまったみたいですね」
 沈降が進んで砂浜が削り取られ、トドワラは観光名所としての価値を失ってしまった。ナラワラが当時の姿をほぼ保っているのと対照的である。
「観光船もあると聞いたんだけど」
「人の姿がなくて、打ち捨てられたみたいですよ」
 予約がなければ、運行されない船など、半ば廃止されたようなものだ。団体客でも来なければ、船は出港しないのだろう。(つづく)


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