僕と妹が声をかけたが、猫は泣き叫ぶばかり。こちらもずぶ濡れになりそうなので、傘をささずに手を差し伸べることもできない。しばらくして雷は遠ざかり、小やみになると、猫はほっとしたように、暗い庭の中を歩き回る。玄関を開けっぱなしにして、廊下に餌を置き、マタタビの粉をかけておびき寄せようとしたが、玄関の中を覗き込むだけで、また出て行ってしまった。
茶トラの猫は、甘えん坊の反面、とにかく外に出たがる。出た途端によそよそしくなり、逃げ回ってしまうのだが、初日に雷雨に見舞われたのが相当応えたようだ。翌日はよく晴れて、隣家の芝生でひなたぼっこしていたが、何か楽しんでいる様子ではない。出て行ってしまった以上、引っ込みがつかなくなっているような。
二晩野宿した次の朝、さすがに心細くなったのか、鳴き方が妙に甘えている。ただ、玄関をくぐる勇気だけがないような。「家に入れ、家に入れ」と祈っていると、妹が差し伸べた手に、猫は抵抗することなく身を委ねた。朝夕はまだ寒いこの季節、ストーブにへばりついていた茶トラの猫にとって、雷雨におびえた野宿は過酷だったようだ。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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