電話を受けて、伯父や伯母とともに、父も捜しに行った。ある時は六郷川を渡って蒲田に、ある時は鶴見の先まで歩いていった。日が暮れてしまい、店先でうずくまっているところを、助けられてこともあった。夜になって街灯がともるようになって、ようやく見つけた父に「迎えに来てくれたのかい」と、うれしそうな顔でほほ笑んでいた。
そのうち、祖母は自分が生まれた故郷、富士市吉原の実家に帰りたがるようになった。親兄弟もすべて亡くなっていたのに。部屋でお茶を飲み終えると、突然、座蒲団を抱えて、「そろそろおいとましないと」と言い出した。
「母さんのうちはここだろ」と父が言っても、祖母は納得しようとしない。しかたなく、祖母の手を引いて歩いていくと、「もう少しで海が見えるはずだ」と祖母は言い張った。実家の先には松原があり、その先には砂浜が広がっていた。生まれてはじめて見た海が、祖母にとっては原風景だったのだ。(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en
https://twitter.com/lebleudeciel38

にほんブログ村

人気ブログランキングへ
ランキングはこちらをクリック!
Twitter、facebookでの拡散、よろしくお願い致します!
ラベル:祖母,故郷,海,認知症