2019年07月29日

ぼくがイヌ派だった頃(16)

 しばらく犬のいない時期が続いた。母がイヌ派であることは述べたが、父はどうだったか。父が猫を贔屓にしているとは、子供の頃の自分は知らなかった。
 ある夜、父が野良猫の子を拾ってきた。そのとき、ぼくは眠っていた。可愛い顔しているので、うちで飼えないかと、母に交渉したらしい。母は強硬に反対した。ぼくは小児喘息だったから、家の中で飼うわけにはいかない。土足でうちと外を行き来するのは許せない。
「第一、私、猫、大嫌い! 捨ててきてちょうだい」
 父は泣く泣く捨てに行った。その夜は捨てた子猫との生活を空想し、眠れない時を過ごしたらしい。よほど悔いが残ったのだろう。女房が死んだら七匹ぐらい飼ってやろうと、書き残していた。後年、それを読んだ母は「そんなこと言ったって、自分の方が先に死んじゃったじゃないの」と言って笑った。
 こう書くと血も涙もないみたいだが、母は思った瞬間に、何でも口にしてしまうタチなのだ。ぼくの反応はというと、子猫が捨てられたと聞いても、大して心も動かなかった。猫は夜中、ニャーニャーうるさいし、糞便は気が狂うほど臭いし。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:42| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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