2019年04月24日

ぼくがダライラマ?(70)

 侍従に用事を言いつけると、ぼくは牧人に変装して、道案内の従者を引き連れ、ポタラ宮前の石段を下りていった。一歩一歩進むたびに、革靴の跡が雪の上に残されていく。すでに雲が切れてきて、月明かりでラサの町はぼんやり照らされていた。ランプの光が届かぬ先も、雪の道を闇の中から浮かび上がらせる。
 これから何が待ち受けているか。引き返すなら今のうちだ。人影はまばらで、通り過ぎる役人も、ぼくの正体には気づかなかった。石造りの四角い民家は、雪をかぶって丸みを帯びている。振り返ると、マルポリの丘にそびえるポタラ宮は、墨絵のようにぼんやり輪郭が浮かび上がっている。

 いきなり目の前の扉が開いた。勧められるままに入ると、店の中にいた男女が一斉にこちらを向いた。平民の女は化粧などしないものだが、ここにいる女は漢族のように白粉を塗っている。主人らしい目つきの鋭い男に、従者が手を上げて挨拶すると、示された角のテーブルへ進んでいく、石の壁は無造作に積まれており、木の窓枠とのすき間から風が入ってくるが、この席は傍らに炉があって、ヤクの糞を燃やしているから寒くない。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:36| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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