2018年05月26日

ぼくがダライラマ?(46)

 夜になるまで、懐の手紙を読むことはためらった。明るいうちは、侍従が部屋の中を出入りするため、動揺を感づかれてしまうからだった。ようやく寝る時刻になった。バターの灯が、机の前で揺れている。外ではまだ侍従が控えているのかもしれない。静まり返る頃合を待って、たたまれた紙を恐る恐る開いた。

 わたくしは今、以前のように自由に外出することを、差し止められております。父が猊下をお呼びしたのも、わたくしの思いを探るためだったのです。
 何から申し上げてよいものやら、わたくしの心は乱れております。実は、わたくし、結婚させられることになったのです。それもラサから遠く離れた貴族のもとへ、見も知らぬ男のもとへでございます。ですから、婚姻の支度が調った段階で、お別れしなければなりません。いきなりこんな手紙を差し上げて、さぞお心を乱されておられるものと存じます。 はっきり申し上げます。わたくしは猊下をお慕い申し上げています。突然わたくしの婚姻が取り決められたのも、わたくしの心にともった火を早めに消してしまうつもりだったのでしょう。しかし、かえって気持ちが抑えられなくなりました。
 猊下のお姿を拝見したのは、ラサにおいでになった日、ガンデン宮でございました。新しい法王さまがお越しになったと聞いて、わたくしの空想は広がるばかりでした。ダライラマとなられる方をお慕いするなんて、大それた真似だと重々承知しておりましたのに。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 12:45| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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