2018年05月06日

番外篇の「虹をつかむ男」(1)

 渥美清が1996年(平成8)に亡くなり、『男はつらいよ』シリーズは、山田洋次監督が構想した形では未完に終わった。ただ、山田監督は、「寅次郎紅の花」の次作として「寅次郎花へんろ」を構想していた。残された脚本を書き直し、『男はつらいよ』のスタッフを中心に制作したのが本作ある。何よりも人の心を大切にする監督の思いが伝わり、単独に見ても味わい深いものであるが、この作品を100%味わうには、『男はつらいよ』シリーズの全作品を見ておく必要がある。
 冒頭の場面で、『男はつらいよ』で満男役だった吉岡秀隆が、亮という青年として列車に乗っている。「寅次郎の縁談」と同様に、就職先が決まらずに、父親と喧嘩して家を飛び出したという設定である。父親は前田吟、母親は倍賞千恵子で『男はつらいよ』と同じであり、住まいも葛飾柴又という設定である。
 四国の山あいの町に「オデオン座」という流行らない映画館がある。館主は活男(かつお)という独身男。客の入りの悪い名画ばかり上映するため、いつも赤字ばかり出している。職人肌の映画技師常さんは、田中邦衛が演じている。田中邦衛と言えば、ドラマ『北の国から』で黒板五郎を演じ、息子の純は吉岡秀隆が演じていた。『北の国から』の視聴者は、両作品のイメージを脳裏に交錯させることだろう。
 西田敏行は渥美清の死後、車寅次郎役を引き継ぐのではないかと噂されていた。確かに、無頼な印象は似ているし、語りだけでイメージを醸し出す能力という点で、渥美清に引けを取らない。もし寅次郎役を引き受けていたら、充分に演じ切れたと思う。ただ、余りに演技が個性的で、西田敏行の特長が演技によく出ている。渥美清の作った車寅次郎というイメージを守りたいという山田監督の意志で、『男はつらいよ』のシリーズは打ち切りとなったのである。
 当初は同シリーズの一つとして構想されたため、活男と寅次郎は重なるところが多い。活男は喫茶店を経営する未亡人八重子に恋をしている。八重子の方でもその気持ちを充分すぎるほど知ってはいるが、再婚相手としてまでは受け容れられない。最後は振られる活男は、寅次郎と同じように、失恋しても引き際を大切にし、温かくヒロインを送り出す。(つづく)


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posted by 高野敦志 at 03:08| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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