2017年06月29日

ぼくはネコなのだ(47)

 それから、極ネコは次第に物を食べなくなった。外は霜柱も立つほどだから、小屋も玄関の中に移動していた。兄貴やぼくが近づいていっても、ぼんやり見ているだけで、心はどこかに飛んでいってしまったみたいだった。
 その日は風もなく暖かなので、日に当ててやろうと、小屋も外に出して日向ぼったできるようにしてあった。極ネコは小屋の中に置かれた湯たんぽの上で、うつらうつつらしている様子だった。「寒くないから」と兄貴を誘って、ぼくらも庭で追いかけっこしていた。
 昼過ぎになって、外出していたおじさんの声がした。ぼくはうれしくなって通りに駆けていくと、見たことのある男の人が横にいた。おじさんの友達で、くまモンのシャツをいつも着ているくまモンさんだった。でも、この前来たときと何か様子が違ってる。いても立ってもいられないみたいで、門を入るとおじさんよりも先に、玄関の方に走っていった。
「イオ、イオ、イオ」
 それはくまモンさんが以前飼ってたネコの名前で、病気で数年前に死んでしまったという話だった。それなのに、くまモンさんは極ネコの毛並みがイオに似ていると聞いて、駆けつけてきたのだった。
 くまモンさんは手を差し出した。すると、知らない相手には「ガー」と威嚇の声を出していたのに、抵抗することもなくくまモンさんに抱かれているのだった。
「間に合ってよかったな」
 おじさんが声をかけると、くまモンさんはうれしそうな顔で、極ネコの顔をこちらに見せた。不思議なことに、うれしそうに目を細めて、口もとが笑っている。そして、かわいらしい声で「ニャー」と鳴いた。
 極ネコはそのまま動かなくなった。くまモンさんは抱きしめたまま、涙をこらえている様子だった。兄貴とぼくは呆気にとられて、その場面をじっと見上げていた。本当は極ネコとイオは関係なかったかもしれない。でも、くまモンさんはイオに再会できたと喜んでいたし、母ちゃんの連れ合いだったネコが、赤ちゃんみたいに抱かれて息を引き取ったのだから、ぼくたちもしんみりした気持ちになった。(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 01:37| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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