2017年05月30日

ぼくがダライラマ?(1)

          一

 ぼくが生まれたのは、今から三百年以上も昔、清王朝の頃のチベット南部、ムン地方だった。お父さんは在家の行者で、お母さんはメンパ族の出身だった。お父さんの仕事は雹で裸麦がやられないように、お祈りで鬼神を退治することだった。それは命がけの仕事で、鬼神に殴り殺されなくても、お祈りの効果がないというだけで、お父さんが責任をとらされるからだった。役人に鞭でたたかれ、血がにじんでいる背中を、お母さんがふいている姿を、生まれて間もない頃に見たことがある。
 普段はお祈りの仕事がないので、毛の長い牛ヤクや羊を育てていた。幼いぼくをヤクの背中に乗せて、お父さんは家の前に広がる草原に出かけていった。
「チベットは地上でいちばん、須弥山に近い国なんだよ。仏さまが住んでおられるから、たとえどんなに貧しくても、来世は極楽にいけるんだよ」
 遠くに見える雪山は、そんな絵空事みたいな言葉を笑うように、朝日を浴びてほほえんでいた。(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:55| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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