2021年01月25日

祖母の家(九)

 それ以来、祖母が一人でいる時は、外出できないように鍵がかけられた。祖母は自分の部屋とトイレの間を、行き来するばかりになった。街中を自由に歩き回ることもなくなった。
 祖母を最後に見たのは、僕が高校一年の正月だった。祖母はこたつに入って、ミカンを食べていた。裁縫ばさみで房を切りながら。もはや、僕が誰であるかも分からなかった。名前を言うと、初めて会ったかのように、「敦志さん」と言ってうなずいていた。
 立ち上がって、箪笥に手をかけたとき、祖母は一瞬、正気を取り戻したようだった。さびしそうな表情になり、一言だけつぶやいた。
「お小遣いもあげられない」
 その年の夏、祖母は高熱にうなされていた。風邪をこじらせたようだった。一週間ほどした真夜中に、祖母は息を引き取った。駆けつけたとき、大好きだったおばあちゃんは、棺の中に収められていた。死に顔を見たとき、この世にいなくなってしまったのを実感した。
 それを境にして、一族が正月に集うことはなくなった。それでも、彼岸になると、線香をあげに、祖母の家を訪れることはあったのだが。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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ラベル:祖母,家,最期
posted by 高野敦志 at 02:01| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする