祖母を最後に見たのは、僕が高校一年の正月だった。祖母はこたつに入って、ミカンを食べていた。裁縫ばさみで房を切りながら。もはや、僕が誰であるかも分からなかった。名前を言うと、初めて会ったかのように、「敦志さん」と言ってうなずいていた。
立ち上がって、箪笥に手をかけたとき、祖母は一瞬、正気を取り戻したようだった。さびしそうな表情になり、一言だけつぶやいた。
「お小遣いもあげられない」
その年の夏、祖母は高熱にうなされていた。風邪をこじらせたようだった。一週間ほどした真夜中に、祖母は息を引き取った。駆けつけたとき、大好きだったおばあちゃんは、棺の中に収められていた。死に顔を見たとき、この世にいなくなってしまったのを実感した。
それを境にして、一族が正月に集うことはなくなった。それでも、彼岸になると、線香をあげに、祖母の家を訪れることはあったのだが。(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en
https://twitter.com/lebleudeciel38

にほんブログ村

人気ブログランキングへ
ランキングはこちらをクリック!
Twitter、facebookでの拡散、よろしくお願い致します!
ラベル:祖母,家,最期