2020年05月31日

祖父の写真

 僕の両親は二人とも、子供の時に父親を失っている。父方の祖父は昭和十五年に、リウマチをこじらせて亡くなった。仏壇に飾られた写真は、伯父とよく似ており、和服姿で面長だが、厳しい顔をしている。父は怒られた記憶しか残っていないと、生前語っていたものだ。
 母方の祖父は、昭和二十二年に急死した。祖母の話によると、闇市で手に入れた密造酒に、メチルアルコールが混ざっていたからだそうだ。七月初旬の明け方、目が覚めた祖父は、トイレの中で倒れた。急性の腎不全だったらしい。まだ四十半ばの若さだった。
 酒屋を営んでいた祖父は、戦時中、商店街の寄合で酒を飲み、「アメリカと戦争しても、勝てる見込みがない」と洩らしたことで通報され、留置場に一晩入れられたということだ。当時女学生だった母を可愛がって、観劇などに連れていってくれたらしいが、どんな顔をしているか分からなかった。仏壇に遺影が飾られていなかったから。
 九十半ばになる伯母に聞くと、「もう写真は残っていないんじゃないかしら。何度も引っ越ししたから」との答え。どんな顔をしていたかと尋ねると、家を継いだ叔母に似ていると教えてくれた。
 その叔母が亡くなって、四十九日の日に線香を上げに行くと、祖父の写真が出てきたと言って見せてくれた。伊勢の二見ヶ浦にある夫婦岩の前で撮影したもので、和服姿で立っている。確かに亡くなった叔母に似ている。泉鏡花を丸顔にしたような顔だった。


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2020年05月30日

東京湾アクアラインが出来る前(3)

 久留里城は平安時代に築かれた城で、戦国時代の1554年(天文23)には、北条綱成の二万余騎の軍勢に対し、里見義尭・義弘らが防戦して落城を免れたとある。里見氏というのは、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』のモデルとなった豪族である。
 戦国時代の山城の特徴を色濃く残している。侍屋敷がすべて川沿いの平地に設けられたのに、久留里藩主は泰平の世になっても、山の頂に天守閣を構えたのである。ここはまた雨が多いことから、雨城(うじょう)という別名もある。現在の天守閣は1979年(昭和54)に再建された物だが、文献や礎石の配置が反映されたものではない。
 曲輪は現在、展望台となっている。そこでおにぎりを頬張った後、資料館を見学することにした。正面には新井白石の像が立っている。久留里で過ごした日々は『折たく柴の記』に詳しいという。(つづく)


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2020年05月29日

東京湾アクアラインが出来る前(2)

 木更津港に着いた。駅までは徒歩で十五分ほどだったかな。正午過ぎの久留里線に乗った。一両の気動車で、速度は自転車ぐらいである。コトコトと水田地帯を進んでいく。これでは自動車にかなわないと思ったが、慣れてくるとのどかな感じでいい。
 久留里駅に着いたのは、午後一時半過ぎだった。お腹が空いていたのだが、入りたい食堂もないので、コンビニでおにぎりと麦茶を買った。線路沿いをしばらく進むと、久留里城入口の看板が見えてきた。
 平日の昼間とあって、通り過ぎる人の姿もない。坂道を上っていくと、正面に短いトンネルがあった。そこから風が吹き下ろしてくる。コンクリートの道を進むと、右方は野鳥を観察するハイキングコースとなっていた。
 木の階段を上っていくと、まず、火薬庫跡があった。その先には堀切があった。これは戦時に備えて、尾根の途中を切り崩して、その上に木橋を設置し、敵が押し寄せたときには橋を落として防戦するためのもの。また、曲輪(くるわ)というのは、山の斜面に設けられた平らな区画で、付属する施設を配置したり、兵士を配備しておく所。(つづく)


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