2020年01月25日

プレーリードッグのキョロ(6)

「癌ができているっていうの。でも、こんな小さい動物だから、手術はできないって」
 戻ってきた妹は、悲痛な叫びを上げた。それを聞いて思い浮かべたのは、何でも部屋中の物をかじっていたことである。アスペクトの壁の角もぼろぼろにしてしまったのが、原因だったかもしれない。
「だから、治しようがないのよ」
「自然にまかせろってことか」
 妹はキョロを連れて、アパートに戻っていった。次第に食が細くなっていき、キョロは衰弱していった。毎日のように、妹は獣医のもとに連れていった。点滴をやってもらったりもした。僕が心配していたのは、妹の精神状態だった。
「キョロちゃん、死んじゃったらしいわよ」
 母から聞いた翌日、キョロは籠の中で、花に囲まれて横たわっていた。器用に前足でつかんで、草を食べる愛らしい姿も、目まぐるしく走り回ることも、キーと叫び声をあげることもないのだ。
 僕は妹の運転する車で、キョロを動物供養する寺に連れていった。運転席の脇で、膝の上に籠を載せながら。寺に到着すると、カセットテープで経文を上げられ、キョロの体は荼毘に付された。その間、妹は待合室で体を震わせていた。思い出を語るたびに、泣き声を上げていた。人は涙を流すことで、少しずつ癒されていくのだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 01:05| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする