2019年12月05日

ぼくがイヌ派だった頃(35)

 更地になってからは、工事の方は遅々として進まなかった。その間、僕と両親と妹の四人家族は、二部屋のアパート暮らしを続け、大五郎は殺風景な庭の端に置かれた犬小屋で、寂しい夜を送っていた。
 コンクリートの土台ができたところで、ある朝、巨大なクレーンが現れて、鉄骨の柱を組み始めた。見知らぬ男たちが大挙して来ただけでも、大五郎にとってはストレスだったろうに、クレーンが鉄骨を吊り下げているさまを見た日には、もうこの世の終わりとでも思ったのだろう。
 つながれていた鎖を断ち切って逃げ出した。正気を失った大五郎は、チワワを連れたおばあさんに襲いかかった。噛み殺されないように、おばあさんがしゃがみ込んで、チワワを腕の中で守っていると、群衆が集まってきた。
「おい、この野良犬め。保健所に電話しろ!」
 たまたま、散歩していた父が通りかかった。父は杖をついていたのだが、チワワがつながれていたリードを借りて、大五郎の首輪につなぎ、それを杖に巻きつけた。大五郎をアパートに連れていくと、母が現場に駆けつけ、人々の怒号の中で、リードを返して平謝りした。おばあさんの家には、後日、改めてお詫びにうかがうことになった。
 その日の夕方、騒ぎを母から聞いた妹が、不安そうに僕に尋ねた。
「大五郎は保健所に連れていかれて、殺されてしまうの?」(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

ラベル:犬イヌ派,柴犬
posted by 高野敦志 at 05:49| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする