2019年11月13日

沈みゆく野付半島(4)

 深夜に台風が日本海を通過したということもあろうが、本当に人気(ひとけ)が乏しかった。見渡す限りでも数人しかいない。それはトドマツの変貌と関係がありそうだった。トドワラと書かれた看板に、簡易便所が二つだけ。友人と僕のほかには誰もいない。トラクターが牽引する車にも、観光客の姿はない。当時からさびれた感じがしたが、これほどではなかった。
 木道を進んでいく。あのころはまだ、トドマツの朽ちた根が、天然のアートのように、砂地に無数転がっていた。動物の骨ならぬ枯れた大木の根が、トドマツの墓場といったさまを醸し出していた。今では大半が朽ち果てて、台風の高波で海中に持ち去られていた。砂州の先端にはまだ青いトドマツもあったはずだが、すでに立ち枯れした木が数本残るばかり。墓標すら姿を消しつつあるのだ。
 数年後には立ち枯れした木もすべてなくなり、打ち上げられ干からびた海藻と、生えたばかりの雑草が砂地に点在する、見る影もない姿に変わっていることだろう。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 02:27| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月12日

沈みゆく野付半島(3)

 野付半島のネイチャーセンターが見えてきた。二階建の巨大な建物は、2002年に竣工したので、前回訪れた1996年には存在しなかった。道路脇に建っているのだが、当時は空き地になっていて、奥に平屋の食堂がやっていた。トドワラ定食という海鮮料理を食べたのを覚えている。
 昼過ぎになっていたので、とりあえず、友人と食事をとることにした。僕はジンギスカン料理を食べた。食事を済まして、トドワラまで歩いて行くことにした。友人はトラクターが牽引する車に乗りたがっていたが。当時は馬車が走っていた気がする。
 原生花園が広がっている。以前来たのは八月上旬だったから、花の種類が多かったが、今回目にしたのは、赤い花と朱の実をつけるハマナス、緑色のお盆状の萼に白い花を多数つけるエゾノシシウドぐらいだった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 02:10| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月11日

岡田惠和の少年寅次郎(4)

 車寅次郎の映像作品には、テレビ版と映画版の『男はつらいよ』、今回のドラマ『少年寅次郎』がある。細かい点を見ると、人物や舞台の設定に違いが見られる。映画版では昭和十五年の生まれだが、『少年寅次郎』では終戦時に下町が焼ける様子を夜通し見ていたところから、十歳前後になっていたはずである。すると、昭和十年頃の生まれでなければ辻褄が合わない。寅次郎の実家は当初「とらや」だったが、モデルとなった団子屋が「とらや」と改名したことに憤激した山田洋次監督は、団子屋を「くるまや」と改めた。『少年寅次郎』では当初から「くるまや」の店名が採用されている。
 今回、英語教師坪内散歩の娘、夏子が登場する。これは映画版『続・男はつらいよ』の設定と同じだが、テレビ版では坪内冬子となっていた。それはテレビ版では御前様が登場せず、坪内散歩の娘を坪内冬子としていたのが、御前様の姓も坪内で娘の名を坪内冬子としたため、坪内散歩の娘は坪内夏子と改められたのである。
 また、『続・男はつらいよ』では、三十代の寅次郎が、夢にまで見た生母菊と再会するのだが、『少年寅次郎』では初めて再会するのは中学生という設定である。細かい点を見ていくと齟齬が出てくるのだが、それは気にせずに各作品を楽しめばいいのである。
 生母菊と寅次郎の再会の場面は感動的である。思春期の揺れる思い、素直には喜べないが、内心では胸の高鳴りを抑えられない様子が、ごく自然な演技で表現されている。生母菊の不器用な愛情表現と、継母光子の抑制した思いが対照的である。葛藤に苦しむ寅次郎にとって、心の光となるのが坪内散歩の娘夏子である。寅次郎のほのかな恋心を、父平造が踏みつけて、次回の出奔へとつながるのだろう。哀しみ、喜び、憎しみ、甘さと苦みがバランス良く味わえる絶品である。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 05:10| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする