2019年11月18日

岡田惠和の少年寅次郎(5)

 昭和二十四年、寅次郎は十三歳になっている。やはり、昭和十一年生まれということか。坪内夏子が父散歩と喧嘩して、くるまやを訪ねてくる。交際相手のことで父に反対されたからで、寅次郎が片思いのままであることに変わりない。
 寅次郎の継母光子は、ずっと腰痛に悩まされていたが、膵臓癌のためであったことが分かる。光子には癌であることは伏せられているのに、泥酔した平造が病院に入り込んで、「死ぬはずない」と大声で叫ぶことで、光子自身に不治の病であることを知らせてしまう。
 結局、光子は帰らぬ人となるのだが、真実から逃げ回る平造は家に戻らず、葬儀も弟竜造・つね夫婦が中心となり、喪主が寅次郎という形で行われる。平造が戻ってきたときには、光子の葬儀はすでに終わっている。
 妻が亡くなったことを認めたくない平造は、またもや寅次郎につらく当たる。二人は似た者同士の近親憎悪の仲であり、光子がいなければ死んでいたんだから、光子に感謝しろと言う平造を、寅次郎は殴り倒して、ついに二十年間戻らぬ長い旅に出るのである。
 さくらが柴又駅まで送りに行き、財布からお札を出して兄寅次郎に渡すところは、『男はつらいよ』で毎度目にする別れの場面である。全五回のテレビドラマは、こうして幕を閉じたのである。
 あとは、山田洋次監督自身による映画化が望まれるわけだが、ドラマと違って、一時間半から長くても三時間の枠に収めるには、原作『悪童』のある時期にしぼった映像化しかないだろう。もし映画化されるなら、寅次郎出奔の経緯に焦点を絞った形で、山田監督の映像世界を見てみたい。


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2019年11月17日

嘘つきじいさん

 むかしむかし、長門の国に子供のような老人がいた。長者の家に生まれたことから、わがままいっぱいに育てられた。昔話を史実だと信じていたから、枯れ枝に桜を咲かせられると思い込んでいた。葉の落ちた枝に藩札をまくと、桜の花が咲く代わりに、サクラが集まってきた。そこで、集まってきた人々に、枯れ枝に桜の花が咲いたと言い触らすように頼んだ。
 その噂を聞きつけたお殿様が老人を呼びつけ、目の前の枯れ枝に桜を咲かせるように命じた。お札をまくわけにはいかないから、千切った紙切れをまいて、桜吹雪でございますと答えた。
「この嘘つきめ」
 お殿様は激怒してしまい、偽者の花咲かじいさんは、とうとう牢につながれてしまったとさ。


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2019年11月16日

沈みゆく野付半島(5)

 木道を戻っていき、二手に分かれた方に進む。下は海となっていた! 砂浜がすっかり浸食されており、海鳥が遊ぶ姿もない。木道の先には痩せ細った砂州、その先に水色の桟橋が、当時の姿をとどめているが。何というさびれ方だろう。今でも尾岱沼との間に航路があるようだが、不定期便で予約がなければ船は出ないとのこと。

 三時を告げるメロディーが流れてきた。僕が野草の写真を撮っていると、友人は先にネイチャーセンターの前で、初老の男性の話を聞いていた。
「四十年前に友達がここに来たんですよ。その時は僕は行かなかったんですが」
 そこで自分も二十数年前に来たときは、トドワラには朽ちた根が多く転がり、トドマツの立木も林のように残っていたことを話した。
「今じゃ立ち枯れした木が数本ですからね。見る影もない姿ですよ」
 男性はネイチャーセンターの二階で、トドワラの現状を知って仰天してしまったらしい。こんなに変わり果て、絶景が失われてしまったことに、時の流れを感じざるを得なかった。
「それに、野付半島自体が痩せ襲ってしまったみたいですね」
 沈降が進んで砂浜が削り取られ、トドワラは観光名所としての価値を失ってしまった。ナラワラが当時の姿をほぼ保っているのと対照的である。
「観光船もあると聞いたんだけど」
「人の姿がなくて、打ち捨てられたみたいですよ」
 予約がなければ、運行されない船など、半ば廃止されたようなものだ。団体客でも来なければ、船は出港しないのだろう。(つづく)


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