2019年09月19日

猫の家出(3)

 弟の猫は一向に捕まらない。以前真冬に逃げたときは、三日外にいて凍えて動けなくなっているところを捕まえた。今は夏だから、容易なことでは捕まりそうにない。
 ところで、妹は友人と旅行する予定を立てていた。北海道に出発する前の日、ようやく焦りだした。自分が逃がした猫を放置したままでは、旅行を心から楽しむこともできないからだろう。
 日暮頃に僕が帰宅すると、猫は自動車の下に隠れており、妹は下を覗き込んで必死に呼んでいる。道路の方に逃がすまいと、駐車場の出口で身構えることにした。ふいに白と茶のまだら猫が現れた。この猫はしばしば庭に現れ、以前弟の猫がちょっと外に出てしまったときにも、鼻を突き合わせて挨拶していた。毛並みが兄の猫に似ているから、うちでは妹の猫と見なしていた。弟の猫を玄関の中に入れた後には、「あっ、入っちゃった」とでもいうように、非常に悲しそうな目をしていたのを覚えている。
 妹の猫は「お兄ちゃんが危ない」とでも思ったのだろう。助太刀に駐車場に入り込み、そのまま弟の猫を連れて道路に出てしまった。これで捕まると思ったのに。二人ともがっかりしてしまった。
 すっかり暗くなってから、弟の猫はふたたび庭に現れた。僕はすかさず、焼きガツオを人間の妹に手渡した。日本の猫は肉よりも、魚が好物であることが多いからだ。
 僕が居間で食事をしていると、「あっ」という声とともに、何かが倒れた音がした。僕が駆け寄ると、妹は地べたから立ち上がった。
「カツオだけ食い逃げされた。iPhone大丈夫かしら」
 iPhoneのライトで照らしていて、手にしたままつんのめったので、画面に傷がついたのではないかと、しきりに気にしていた。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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ラベル:猫,家出,夏
posted by 高野敦志 at 04:55| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする