子母沢寛は勝小吉の『夢酔独言』と海舟の『氷川清話』を参照したはずだが、後者の流布本は編者の吉本襄が改変したもので、海舟の談話が意図的に歪められてしまっている。江藤淳・松浦玲編の『氷川清話』は、改変される前の海舟の語りを再現した物である。
改変の多くは、海舟が徳川時代と明治時代を比較して、明治時代を批判している部分にある。伊藤博文など長州閥の人間を小人物として批判する一方、江戸無血開城をともに成し遂げた西郷隆盛や、東京遷都に同意して東京の繁栄に尽くした大久保利通を評価している。特に西郷の豪胆さには敬意を表している。
徳川時代の人間が、いかに肝が据わっていたかを強調し、政治にとって最も重要なのは、誠心誠意であり、それによって人心を掌握し、外交も切り抜けることができると説いている。国によって差別せず、小国を軽んじなければ、大国からも敬意を表される点など、長州閥の安倍政権が学ぶべき点も多い。
危機を乗り切り、偉業を成し遂げるには、肝が据わっていなければならない。海舟は若い頃、剣術と座禅でそれを学んだ。虚心坦懐、明鏡止水となってはじめて、死地を乗り切ることもできる。杓子定規や学問に頼っているだけでは、現実の社会は理解できない。たとえ学問のない、一般の庶民であっても、人生の極意を体得していた徳川時代は、儒教の精神が庶民にまで行き渡っていた時代だった。
参考文献 江藤淳・松浦玲編『氷川清話』(講談社)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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