2019年07月12日

ぼくがイヌ派だった頃(8)

 どうしても我慢できなくて、一度だけ物置の戸をこっそり開けたことがある。床の上にはクロらしい体が横たわっていた。ほとんど動かず、息をしているのかも分からなかった。見てはいけない物というのは、これだったのか。ぼくはのぞきに行ったこと自体を、さっきまで忘れていたのだ。
 それから一週間もたたないうちに、母は小学校から戻ってきたぼくを座らせると、まじまじと見つめながら言った。
「クロが死んだの」
 何と答えたらいいか分からなかった。あの時のクロは、生きていたとしても虫の息だったのだろう。ぼくが黙ったままなので、母は話を続けた。
「クロをね、リンゴの木箱に詰めたの。お花を入れて飾ってあげたわ。そして、焼いてもらうために引き取ってもらうことにしたの」
「どうなるの?」
「動物のお墓に一緒に入れられるのよ」
 ぼくは見たいと言ったが、母は決して許してくれなかった。次の日の朝に、クロは清掃局に引き取られていった。母の話はどこまで本当だったのか。死体処理を頼んだわけだから、墓地に入れられたかどうか。他の焼却灰とともに、埋められてしまったのかもしれない。ぼくの幼年時代はこうして終わった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 01:02| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする