2019年06月13日

ぼくがイヌ派だった頃(4)

 この広場も梅雨が明けるまでには、一面青草の絨毯(じゅうたん)と化した。夏のまばゆい光が照り付けても、緑に覆い尽くされた台地は、吹き過ぎる風のために涼しかった。近所の子供たちの楽しみは、ぐるりと囲む林を探検することだった。そこには妖精の装いをした青いツユクサの花や、大人は見向きもしないカタバミ、オオバコなどの野草が、枝と枝の間に出来たわずかの日向で、慎ましげに光を浴びているのだった。
 大人の背丈ほどもあるキイチゴの木には、トゲのある茎のあちこちに、黄身の色した虫の卵に似た粒々が、可愛い鈴みたいになっていた。数分も摘まないうちに、竹の籠は宝石に見える実でいっぱいになっていた。丘の下にある小川で洗うと、ぼくらは先を争って口の中に放り込んだ。果汁を包む膜が破れて、酸っぱさに思わず飛び上がったものだ。
 ここへはザリガニを捕まえに来ることもあった。川岸の草につかまって底へ下り、辛抱強く水が澄むのを待ったところで、泥の中でじっとしている奴へ、そっと指を伸ばしていくのだ。レンガ色の鎧をまとっていて、外見より敏捷な動き方をする。ジェット噴射するように、尾の方から濁り水の中に身を隠してしまう。不用意に手を触れる者には、自慢のハサミという武器を用意して。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 03:17| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする