2019年06月11日

ぼくがイヌ派だった頃(3)

 ほがらかな早春の一日だった。地面のあちこちからはつくしが頭を出し、時折吹き過ぎる風が、むきだしの畑の土を舞い上げた。妹とふざけ合っていると、クロを連れた父に、お弁当を持った母が後からやって来た。
 ぼくらはくぼみの一つで、ひなたぼっこをしていた。父が首輪からロープを外すと、クロは勢いよく原っぱの上を駆け出した。ぼくは追いかけたのだが、いつの間にか追いかけられていた。クロは逃げ回るぼくを、獲物と間違えたのか。いや、そうやって年下のぼくをあやしてくれていたのだろう。
 走ってくたくたになると、枯れ草の上にしゃがみ込む。すると、父がこっちへ来い、とぼくのことを呼んだ。仰向けに寝ていた父は、両腕と両足を真上に向けてから、その上に乗っかれ、と言う。足の裏にお腹を乗せると、父はぼくの肩をしっかりとつかんだ。
「おい、両手を広げるんだ!」
 ぼくは飛行機になっていた。自分の頭の中では、プロペラがブルブルうなっている。ぼくはおなかがくすぐったいのと、空中に自分の体が浮いたのとで、けたけた笑い声を上げていた。それを目にした妹は、おにいちゃん、ずるい! と泣きそうな顔して、早く替わってくれるようせがむのだった。
 ちょうどその時、本物のエンジンの音が、南の稜線からしてきた。地面に下りたぼくは、ブルブルいう正体を見きわめに走り出した。真っ青な空の中央を、白いボディーに赤いラインのプロペラ機が、川の対岸へ向かって飛んでいく。追いつけずに転んだぼくは、父と同じく仰向けになり、空の全体を見開いた目でつかんでやろうとした。差し入った光に目がくらんだ途端、忍び寄ってきたクロはすかさず、ぼくの頬を大きな舌でペロリとなめた。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:52| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする