2019年04月19日

洞爺湖に幻の霊山現る(6)

 歩けるから大事には至らなかったようだ。ホテルに戻り、先に夕食を取ることにした。正面の大ガラスには、闇に沈みつつある洞爺湖が映っていた。食事を済ましてから仮眠した。午後十一時に大浴場に向かった。温泉は硫酸系の成分と塩分、炭酸などが含まれた透明な湯で、肌がすべすべになる。

 翌朝、友人がカーテンを開けると、目を疑ってしまった。夢でも見ているのだろうか。洞爺湖の中島の左彼方に、幻のように巨大な成層火山が、雪をいただいて誇り高くそびえていた。高さは中島と同じくらいに見えるが、実際にははるか遠くにあり、雲の多かった昨日は姿が見えず、晴れ上がった今朝、全容が映し出されたのだった。
 羊蹄山だった。蝦夷富士とも呼ばれる。なるほど、形の美しさと言い、堂々とした偉容と言い、富士の名にふさわしかった。蝦夷地にも富士があったのか。利尻富士や渡島富士もあるが、羊蹄山こそ北海道随一の名山の名にふさわしい。
 二十一歳の頃、僕は洞爺湖を訪れているが、その時は羊蹄山に気づいていたのだろうか。夏の終わりだったから、雪はかぶっていなかった。千年ほど噴火していないため、山頂まで緑に覆われている。火口は2キロに渡り、山麓には湖もある。記憶をたどると、確かに羊蹄山はあった。異様に大きな緑の山が。火山としか思えない形をしながら、全山緑に覆われていたな。(つづく)


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2019年04月18日

連体修飾節内の動詞について

 連体修飾節とは名詞を修飾する節である。「兄が撮った写真はこれです」のうち、「兄が撮った」の部分が連体修飾節で、修飾される名詞は「底の名詞」と呼ばれる。「兄が撮った写真」のように、「底の名詞」である写真が元の文である「兄が写真を撮った」の中に含まれている場合を「内の関係」、「鳥が飛んでいる写真はこれです」のように、連体修飾節が修飾される名詞の内容を表し、「底の名詞」(写真)が連体修飾節(鳥が飛んでいる)の中に含まれず、外から付加された場合を「外の関係」と呼ぶ。
 寺村秀夫によるこの区別は、文法研究の上では重要だが、連体修飾節を学ぶ外国人がまず戸惑うのは、連体修飾節の中に含まれる動詞の種類によって、意味が異なってくるという点である。

1 本を読んでいる人は陳さんです。
2 本を読んだ人は陳さんです。
3 陳さんが読んでいる本は、夏目漱石の『こころ』です。
4 陳さんが読んだ本は、夏目漱石の『こころ』です。

「読む」「書く」「話す」など動きに時間がかかる「継続動詞」の場合、「読んでいる(人・本)」は、現在「読んでいる」という継続の状態を表している。一方、「読んだ(人・本)」の場合には、もう読んでしまったという過去のテンス(時制)を表す。そのため、両者の意味に違いが生じるのである。

 では、連体修飾節内の動詞が「着る」「はく」「かぶる」など、動きが瞬間に終わる「瞬間動詞」の場合はどうだろうか。

5 メガネをかけている人は陳さんです。
6 メガネをかけた人は陳さんです。
7 陳さんがかけているメガネは汚れている。
8 陳さんがかけたメガネは汚れている。

「メガネをかけている人」「メガネをかけた人」は一般に同じ意味で発話される。「かけた」の「た」は完了を表している。一方、「陳さんがかけているメガネ」は、現在かけているメガネであり、「陳さんがかけたメガネ」の方は、「かけた」の「た」を過去のテンスととらえることが多い。
 この違いはどこからくるのだろうか。「底の名詞」が「人」の場合は同じ意味で、「物」の場合には意味に違いが生じると、とりあえず教えてしまってもいいかもしれない。ただ、そう教えてしまうと、次のような例文が出て来ると困ってしまう。

9 (陳さんは)しみがつい(い)てるズボンをはいている。
10 (陳さんは)しみがついたズボンをはいている。

「底の名詞」がともに「物」であるにもかかわらず、両者の意味は同じである。7と8には違いがあり、9と10に違いがないのはなぜか。それは7と8では、連体修飾節の部分に動作主の「陳さん」が含まれているのに対し、9と10では連体修飾節に含まれる「しみ」は「物」だからである。
 連体修飾節内に「動作主」が含まれることで、「陳さんがかけているメガネ」は、現在かけている状態、「陳さんがかけたメガネ」は過去にかけたことをことを表す。それに対して、連体修飾節の中に「動作主」が含まれない9と10では、「しみがついて(い)るズボン」も「しみがついたズボン」も、ともにスボンの状態を表しているのである。


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2019年04月17日

洞爺湖に幻の霊山現る(5)

 洞爺湖畔に有珠山ができたのは、2万年前のこと。かつては美しい成層火山だったが、1663年(寛文3)の大噴火で山体崩壊を起こし、登別や白老も1メートルの堆積物で覆われた。海面は噴石や火山灰で、沖合まで陸地のように見えたという。
 江戸時代の明和や文政の噴火では、多数の住民が火砕流や火砕サージに巻き込まれて死亡した。江戸時代は、有珠山も樽前山も、渡島半島の駒ヶ岳も大噴火をしている。現在、同等の噴火が発生した場合、当時とは比較にならない被害を受けるに違いない。
 さて、火山科学館には入場できなかったが、まだ未練があった。明日もう一度来るか? すでに雪はやんでいた。帰路はバスに乗るか悩んだが、待ち時間を考えて徒歩にした。ところが、下り坂が凍結していて尻餅をついてしまった。結構勢いよく転んだので、倒れたまま痛みに耐えていた。(つづく)


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