2019年04月24日

ぼくがダライラマ?(70)

 侍従に用事を言いつけると、ぼくは牧人に変装して、道案内の従者を引き連れ、ポタラ宮前の石段を下りていった。一歩一歩進むたびに、革靴の跡が雪の上に残されていく。すでに雲が切れてきて、月明かりでラサの町はぼんやり照らされていた。ランプの光が届かぬ先も、雪の道を闇の中から浮かび上がらせる。
 これから何が待ち受けているか。引き返すなら今のうちだ。人影はまばらで、通り過ぎる役人も、ぼくの正体には気づかなかった。石造りの四角い民家は、雪をかぶって丸みを帯びている。振り返ると、マルポリの丘にそびえるポタラ宮は、墨絵のようにぼんやり輪郭が浮かび上がっている。

 いきなり目の前の扉が開いた。勧められるままに入ると、店の中にいた男女が一斉にこちらを向いた。平民の女は化粧などしないものだが、ここにいる女は漢族のように白粉を塗っている。主人らしい目つきの鋭い男に、従者が手を上げて挨拶すると、示された角のテーブルへ進んでいく、石の壁は無造作に積まれており、木の窓枠とのすき間から風が入ってくるが、この席は傍らに炉があって、ヤクの糞を燃やしているから寒くない。(つづく)


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2019年04月22日

加藤貞寿の《SITAR》

 シタールという楽器は、インドの民族楽器で以前、カセットテープで聴いたことがあった。神秘的な音色で、幾つもの弦の残響が重なり合って、幽玄な世界に導かれていく。MIDIのシタール音源を鳴らすと、多くの音が重なり合っているのが分かる。見る見るうちにパソコンのCPUの限界に近づき、メロディーが金属的な音のうねりに呑み込まれていった。
 シタールはインドの古典的な楽器で、西洋的な音楽の感覚では理解できない。シタールは理解するというより、体で感じ取るべき楽器である。現にシタールを使って、チャクラのエネルギーを増幅させる曲もあるほどだ。
 加藤貞寿の《SITAR》を聴いて驚いたのは、古典的な枠にはまらない個性を感じたことだ。シタールの独奏にとどまらず、エレキピアノとの合奏もあり、即興演奏のために全神経を集中しながら、聴く者に癒しの感覚を与えてくれるのだ。即興を重んじるという点で、ジャズに通じるものを感じた。
 シタールの魅力を十全に感じ取るには、目の前で演奏してもらうのが一番だろう。シタールの弦が放つ倍音や残響が、魂を夢幻境にいざなってくれるのだが、従来のCDなどでは再現しきれなかった、体に伝わってくる振動までも再現するには、ハイレゾの媒体が必要なのである。
 ハイレゾと言えば、SACDが先駆け的な存在で、DSD2.8MHzの音が収録されている。ただ、現在ではその上の5.6MHz、さらに上位には11.2MHzもある。音質は弦のうなりや鐘の振動も目に見えるほどで、人間に潜在する共感覚を刺激する。ただ、ファイルの大きさが膨大になってしまうのがネックだ。臨場感を持つ高品質の音と、ファイルの小ささを兼ね備えたのが、最近注目されているMQA-CDである。
 加藤貞寿の《SITAR》はMQA-CDに収録されており、CD音質でなら通常のCDプレーヤーやパソコンでも再生可能だが、折りたたまれた高音質の音まで展開するには、専用のデコーダーが必要である。一番手軽なのは、MQAに対応した携帯プレーヤーで、さらに本格的に楽しむには、パソコンにAudirvanaなどのプレーヤーをインストールし、レンダラーと呼ばれるMQA対応のDACに出力する必要がある。


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2019年04月21日

洞爺湖に幻の霊山現る(7)

 朝食後、少し休んでからチェックアウトした。路面はカチカチに凍っている。歩いていくのは危険だ。10時のバスでビジターセンターの手前まで行った。洞爺湖の方を見ると、湖上に遊覧船の姿があった。冬期は中島の手前までしか行かないらしい。
 火山科学館で受付を済ました。先に映画を見ることにした。有珠山の噴火に関するビデオで、特徴は火山性微動が地響きの形で、床から体感できるという点だった。小規模の物は35年前の施設にもあったが、迫力に大きな違いがあった、凄まじい音が館内に鳴り響き、重低音で体が震えた。
「有珠山は優しい山だ」というアナウンスが入った。噴火の前には必ず地震が始まり、これから噴火することを知らせてくれる。その間隔は20年前後。2000年の噴火でも、数日前には噴火を予知して、一人の犠牲者も出さなかった。(つづく)


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