2019年01月21日

マイルス・デイビスの《リラクシン》(1)

 偉大なアーティストは、成功しても同じスタイルに飽き足らず、新境地を開拓していくものだという。マイルス・デイビス Miles Davisはまさしく、そうしたジャズ・トランペッターだった。
 マイルス・デイビスの初期の活動は、チャーリー・パーカー Charlie Parkerとともにあった。ただ、ダイヤル版に残されたデイビスの演奏を聴くと、パーカーの勢いに押されて、ついていくのがやっとといった感じである。デイビスの自伝によれば、パーカーがデイビスをバンドに入れたのは、父親が医師だったからだそうで、金蔓になると思ったらしい。デイビスのトランペットを、パーカーが麻薬に換金したという逸話も語られている。
 生涯変化し続けたデイビスだが、かすれたような浮遊感をたたえるカインド・オブ・ブルー Kind of Blueで究極の域に達した演奏に、極限の美を見いだすファンは多いだろう。僕の場合も、もっぱら聴くのは50年代までのアルバムである。
 究極の域に達する前の1956年、プレスティッジでわずか2日間で録音された4つのアルバム《クッキン》Cookin'《リラクシン》Relaxin'《スティーミン》Steamin'《ワーキン》Workinも、50年代のアルバムとして人気が高い。肩に力の入らない自然な演奏が、親しみを湧かせる要因だろう。(つづく)


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2019年01月20日

ぼくがダライラマ?(65)

 立ち上がった摂政は、新郎・新婦の前に立った。二人がひそかに愛し合い、親の反対を押し切ってまで結ばれようとしたという逸話を披露した。そう言いながら、目頭を押さえる摂政を見て、何という虚言の天才だろうとあきれてしまった。人をあざむくためには、まず自分自身をだます必要があるのか。これはきっと、ぼくに対する当てつけなんだと思った。
 我に返ったとき、脇にひざまずいていた侍従に促された。言われるままに、今度はぼくが、新郎新婦の前に立った。祝福のための白い布、カタが手渡され、新郎と新婦の首にかけるように言われた。今度はぼくが、ダライラマとして祝辞を述べなければならない。
「よろしく、よろしく」と言いかけたが、あとの言葉を続けられなかった。若い貴族の動転はいや増していった。
 凍りついた貴族の首にカタをかけた。相手は答えられず、ただ深々と礼をするばかり。今度は新婦にカタをかける番である。(つづく)


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2019年01月19日

ぼくがダライラマ?(64)

 その時、はらわたを揺るがすホルンが、夜叉羅刹をも震え上がらせるほどの、凄まじい重低音で鳴り渡った。この婚礼を妨げられる者は、もはや誰もいないと宣告するかのように。それを祝して高らかに、銅鑼や大太鼓が打ち鳴らされると、会場はあふれんばかりの音の渦に包まれた。
 摂政はせわしげに立ち上がると、もったいぶった口振りで祝辞を述べた。この婚礼が諸仏・護法尊の意にかなったものであり、ダライラマの賛意と力添えによってなされたと法螺を吹いたばかりか、目の前でひざまずくと合掌した。
 ぼくは抑えていた憎悪の念が、じりじりと胃の辺りを焼いていくのを感じた。手足からは血の気が失せて、めまいをこらえるために、ひじ掛けに置いた拳を握りしめた。(つづく)


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