2018年10月16日

塔田創の『平成うろ覚え草紙』

 谷崎潤一郎は小説の中に、現実には存在しない書物を引用するように見せかける手法で、『武州公秘話』と『春琴抄』を書いている。勿論、本物らしい擬古文も作って、わざわざ注釈までつけている。これは小説というフィクションの枠組みの中で行った谷崎流のレトリックなのである。
 今回紹介する『平成うろ覚え草紙』は、安政七年に歌川芳細(よしこま)という絵師によって書かれ、幕府に発禁扱いされた古書が、大学の文学研究センター所属の教授によって現代語訳されたというスタイルを取っているが、実はこれも偽書を作っている点で、谷崎がやったことに近い。ただ、こちらは小説ではなく、世にも珍しい古書が発見されたと、読者を担ぐために書かれたのである。原文と現代語訳を併記するのではなく、現代語訳しか載せていないのは、塔田氏がイラストレーターで、江戸時代の草紙を模倣する点に力を入れているためだろう。
 草紙には歌川芳細がタイムトリップして、平成の世の風俗を江戸時代の人間の目で見たという絵が、いかにも当時の草紙らしく描かれている。その凝りようは、絵の説明に変体仮名を用いている点にも表れている。江戸時代の草紙を普通の人が読めないのは、当時は漢字の草書体を仮名とした、多数の異体字が存在したからである。
 冬至老神は、恵比須様のような神が、大きな袋を背負って、角の立派な鹿に乗っている。これはサンタクロースのことだろう。雪板滑はスノーボード、南瓜祭はハローウィン、揚蕎麦はインスタントラーメン、男の妓楼はホストクラブといった具合で、絵と説明から現代の何に当たるか当て物をするといった趣向である。
 精巧に作られているので、途中まで本物の草紙だと、僕自身も騙されていた。でも、余りに出来過ぎているから、途中でおかしいと気がついた。何で騙されたかというと、実在する絵師歌川国芳の「東都三つ股の図」に、東京スカイツリーらしきものが描かれていると、話題になったことが頭にあり、歌川芳細という架空の絵師と実在する国芳を混同していたからである。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 03:16| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする