2018年08月16日

ぼくがダライラマ?(52)

 ついに満月の夜が訪れた。雲が切れて東の空から、赤みがかった月が昇ってきた。思いがこもったような色に、これまでにないほどおののき、興奮を覚えるのだった。行かないという選択肢はなくなっていた。
 夜が更けていった。侍従も床についたようだった。ぼくは用意してあったランプに灯を点すと、薄暗いポタラ宮の廊下を抜けて行った。見張りの兵士には黙っているようにと言い、小銭を握らせておいた。あいつらはぼくの性癖を知っているのだ。野山を駆けまわっていた若者が、剃髪して僧形となっても、巨大な牢獄のような宮殿に、おとなしくなどしていられないことを。
 ポタラ宮を抜け出すと、冷ややかな風が頬を打った。柳の垂れ下がった枝が、幽霊のように左右に揺れ動いている。振り返ると、明かりの消えた宮殿は、輪郭がかろうじて見えるほどだった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:00| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする