2018年08月17日

島でなくても桜島(2)

 城山に登ることにした。ここは西南戦争の舞台となった所である。小高い丘を小鳥の声を聞きながら林の道を進んでいった。展望台からは桜島と、隔てる海峡、そして鹿児島市内が一望に見渡せる。
 西郷隆盛も最期に、この風景を眺めたのだろうか。ちなみに、西郷が自刃したとされる洞窟は、ここからはかなり離れている。北東方向で日豊本線の線路脇に近い位置にある。西郷は果たして城山で死んだのだろうか。
 明治の元勲だった西郷が、不本意な死を遂げるはずがないと、多くの人々が当時から思った。ロシアに亡命したという噂が流れたが、これは源義経が平泉では死なずに、モンゴルに渡ってチンギス・ハンになったという伝説と同じである。「もうここらでよか」という言葉を残して自刃したというのが、やはり真実なのだろう。
 ただ、西郷のよく知られた顔は絵画ばかりで、弟の西郷従道と従弟の大山巌の顔を参考に、画家のキヨッソーネが描いた物が有名である。本当の顔が分からないことが、西郷亡命説の流布に拍車をかけたのでないか。(つづく)


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2018年08月16日

ぼくがダライラマ?(52)

 ついに満月の夜が訪れた。雲が切れて東の空から、赤みがかった月が昇ってきた。思いがこもったような色に、これまでにないほどおののき、興奮を覚えるのだった。行かないという選択肢はなくなっていた。
 夜が更けていった。侍従も床についたようだった。ぼくは用意してあったランプに灯を点すと、薄暗いポタラ宮の廊下を抜けて行った。見張りの兵士には黙っているようにと言い、小銭を握らせておいた。あいつらはぼくの性癖を知っているのだ。野山を駆けまわっていた若者が、剃髪して僧形となっても、巨大な牢獄のような宮殿に、おとなしくなどしていられないことを。
 ポタラ宮を抜け出すと、冷ややかな風が頬を打った。柳の垂れ下がった枝が、幽霊のように左右に揺れ動いている。振り返ると、明かりの消えた宮殿は、輪郭がかろうじて見えるほどだった。(つづく)


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2018年08月15日

ぼくがダライラマ?(51)

               七

 それから悶々とした日々が続いた。ぼくは自分がとんでもないもめ事に、巻き込まれようとしているのを感じた。摂政の娘からの申し出を無視してしまったら、あの女は嘆き悲しむだろうが、やがて父親の命じるままに貴族に嫁ぎ、平凡ながらも幸せな一生を送るだろう。
 ただ、ポタラ宮で仏教を学び、与えられた政務をこなすことが、延々と続くのではないかと思うと、やり切れない思いにかられるのだ。あの娘に近づかない方がいいと思うほど、摂政の屋敷でよこした文の言葉、ただの一度でいいから一対一で話したいという言葉が、女の声となってよみがえってくるのだった。
 夜になって一人で部屋にこもるとき、ぼくは同じことばかり考えていた。もし会いに行かなければ、行かなかったことを悔いて、会ったときのことをあれこれ空想して、かえって心が乱れるのではないか。それなら、会ってあとは、なすがままにまかせればいいじゃないか。(つづく)


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